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 「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルスが呼吸器に感染することによって起こる病気で、鼻水、鼻づまり、微熱、きわめて短期間の軽度の悪寒といった「風邪(普通感冒)症状」とは異なり、発熱(38~40℃)、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、強度の悪寒といった症状をみせます。気管支炎、インフルエンザ肺炎、細菌性肺炎、インフルエンザ脳症といった合併症を引き起こし、二次感染や急性脳症により死亡することもあります。

 インフルエンザに感染すると、合併症を引き起こす可能性の高い、気管支喘息など慢性肺疾患を持つ人、糖尿病など代謝異常を持つ人、HIV患者など免疫不全状態の人、65歳以上の高齢者、妊娠28週以降の妊婦などには死に至るリスクの高い病気です。しかし、インフルエンザワクチンの接種を受ければ、高齢者を中心としたハイリスク群で、肺炎などの合併症の発生や重篤な健康被害を減少させる効果が期待できます。

 ワクチンは身体の免疫機構を利用します。ウイルスを分解して精製したHA蛋白などの成分を体内に入れて(「HAワクチン」)抗体を作らせておき、本物のウイルスが入ってきても感染させないようにするものです。そのため、ワクチンの製造にはウイルスが必要です。ウイルスをなんらかの「細胞」で大量に増殖させる必要があるのです。A型インフルエンザはヒト以外にトリ、ブタなどを自然宿主とする人獣共通感染症でもあります。 そこで、インフルエンザウイルスは、鶏卵(「トリ」の卵)で増殖させることが行われます。

 現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを「発育鶏卵(孵化鶏卵、有精卵が孵化するまでの発育過程の鶏卵)に接種して増殖させ、漿尿液から精製・濃縮したウイルスをエーテルなどの脂溶性溶剤を加えて、免疫防御に関与する部分を取り出し(「成分ワクチン」)、更にホルマリンで不活化したものです(死滅させた病原体を含む「不活化ワクチン」で、弱毒化してあるが生存している病原体を含む「生ワクチン」とは異なる)。

 河出書房新社(1997年刊)、山内一也(北里研究所、国立予防衛生研究所、東京大学医科学研究所教授、日本生物科学研究所を経て、東京大学名誉教授)著の「エマージングウイルスの恐怖-人獣共通感染症の恐怖を超えて」の記述からいくつか拾ってみましょう。

 「ウイルスの研究は、このようにして動物で始まった。しかし、数多くの動物を用いることは困難であり、しかも動物の個体差や、ウイルスによってはすでに感染してしまっている動物も混じったりするため、実験成績も不安定になる。この欠点を補うものとして登場したのが、動物の代わりに孵化鶏卵を用いる方法である。これは1931年に、米国のグッドパスチャー(Ernest William Goodpasture)らにより発表され、その後、ウイルス研究の重要な手段となった。」

 「彼らが用いたのは、鶏痘ウイルスで、これは牛での牛痘に相当するニワトリのウイルスである。ニワトリの卵は21日で孵化するが、その途中12日前後になると、卵の殻の膜の下に漿尿膜がはっきりしてくる。これはニワトリ胎児(胚)を包む膜で、血管に富んだ組織である。この膜の上に鶏痘ウイルスを加えると、2、3日でウイルス感染した場所の組織が増殖したウイルスの作用で盛り上がり、斑点として見えてくる。」



 「この斑点の数は接種材料の中に含まれるウイルスの量を反映している。それまでは、実験動物を使って行っていたウイルス研究に、卵という単純な宿主が利用できるようになったのである。孵化鶏卵を用いる方法は、その後いろいろと改善され、多くのウイルスで利用されるようになった。現在でもインフルエンザウイルスの分離や、インフルエンザワクチンの製造には孵化鶏卵が用いられている。」

 インフルエンザワクチンの製造にはまず、100万単位のウイルスフリーの有精卵が日々用意されます。ワクチンは人体に注射するものですから、目的のインフルエンザウイルス以外にいかなる微生物も含まれていてはいけないのです。

 ウイルスフリーの無菌な有精卵を、孵卵器で11日間ほど成育させてから、卵殻に小さな穴をあけて、「將尿膜腔」にインフルエンザウイルスを注入し、その穴をふさぎます。孵卵器に戻し、3日ほど温めた後で、ウイルスの増殖した將尿液を採取します。

 採取されたウイルスを含む將尿液は、遠心分離機にかけられて、ウイルスが分離されます。分離されたウイルス全体をワクチンとして用いると(「全粒ワクチン)、無毒化しておいても不純物などで発熱などの副作用が強く現れるので、ウイルス粒子の中で感染防御に関与する部分だけを分離・精製し、感染防御に役立たない部分・副作用を起す部分を除いておきます。

 最後に、安全性と有効性を確認する試験が製造所(「北里研究所生物製剤研究所」など)と「国立感染症研究所」で二重に行われます。「無菌試験」には1か月ほどかかるようです。ワクチン内にウイルスや細菌の汚染がないかが検査されます。いかなる微生物も生存していてはいけないのです。「発熱試験」は実験動物にワクチンを注射して発熱を起こさないことの確認です。さらに、「有効性試験」で実験動物にワクチンを注射して免疫抗体を充分に作られることが確認されます。免疫を与える力が弱いと廃棄されることになります。

 インフルエンザワクチンの製造は、細心の注意を払って全行程を無菌で管理しなければならず、また、安全性と有効性の確認に何か月か要します。インフルエンザワクチンが製品になるまでには数か月に及ぶ大変な作業を経ているのです。

 新型インフルエンザワクチンの製品化が北半球が冬季に入って襲ってくるであろう新型インフルエンザの第2波の攻撃に間に合うことを願って止みません。

“USA TODAY”の記事からです。

Flu vaccine production
 Developing a vaccine to combat the swine flu strain could take months, based on current production methods. For comparison, this is how the seasonal flu vaccine is made:
January, February, March
 ■An FDA advisory panel selects three flu strains it believes will be circulating in the coming season.
 ■The FDA distributes samples, or seed virus, of the strains to the manufacturers.
 ■Seed virus is injected into chicken eggs. Each virus strain is made separately and later combined to make one vaccine.
April, May
 ■Millions of specially prepared eggs are used, each one is cleaned with a disinfectant spray and injected with one strain.
 ■Virus multiplies in incubated eggs.
 ■Virus is harvested.
June, July
 ■FDA tests for purity and potency.
 ■The strains are blended into one vaccine.
 ■FDA licenses the vaccine.
August
 ■Vaccine is filled into vials and syringes, packaged. It is kept in cold storage.
September
 ■Vaccine is shipped.
October
 ■Vaccination; imunity developes about two weeks after getting the shot.


          (この項 健人のパパ)

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