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 2009年5月19日に舛添要一厚生労働大臣は新型インフルエンザの国内対策切り替えに向けて、感染症の専門家4人から意見聴取したそうです。その4人とは、岩田健太郎氏(神戸大大学院教授)、森澤雄司氏(自治医大病院感染制御部長)、森兼啓太(国立感染症研究所主任研究官)、畠山修司氏(東京大学附属病院感染制御部長)です。

 この意見聴取の後に、メディアに対して読み上げられた文章から、現在の「新型インフルエンザ対策」の問題点を指摘してみましょう。

 「インフルエンザは、ほかの病気同様、重症なものと軽症なものがあります。重症なインフルエンザは由々しき事態で全力での医療が必要になります。しかし、軽症者は自宅で安静にしていれば自然に治ります。本来、インフルエンザは自然に治る病気なのです。したがって、新型インフルエンザに対して、その重症度を無視して、一律の医療サービスを提供するのはいかにも理にかなっていないことです。

 2009年2月17日に「新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議」が開催され、「新型インフルエンザ対策行動計画」が改定されました。この「対策行動計画」は、新型インフルエンザ対策を迅速かつ確実に講じるため、「WHO Global Influenza Preparedness Plan(WHO 世界インフルエンザ事前対策計画)」に準じて、2005年12月に策定され、幾度かの改定を経ています。

 さらに、2008年4月に、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律」が成立し、水際対策など新型インフルエンザ対策の強化が図られています。

 「(毒性の弱いインフルエンザなどの)鼻水、咽喉痛だけで自然に治る病気に入れ込み(熱中し)、命にかかわる心筋梗塞の治療がおざなりになるのは、本末転倒です。インフルエンザとは本来、病人/患者からアプローチすべきものです。世界の専門家はすでに気道感染症として病原体から切らないまっとうなアプローチをしています。RSウイルスもコロナウイルスもインフルエンザウイルスも原則的なアプローチは同じなのです。

 これは、インフルエンザも普通感冒も「気道感染症」として括り、その重症度から患者に適切な治療を行うのが合理的だと主張しているのです。それが「患者中心の治療」だと述べているのです。「無限の泉から医者や看護師が湧き出てくるなら話は別ですが、この日本はずっと前から医療崩壊に片足を突っ込んでいたのです。」とも言うように、医師不足が進行する日本にあっては特に、その医師に適切に動ける環境を与えてあげなくてはなりません。新型インフルエンザ感染者だからといって軽症患者に大きく手を割いて、別の疾患の重症患者に十分な治療が施せないというのはなんとも不合理です。

 「日本は古来病原体からのみ感染症を扱っていました。感染症法がその象徴です。しかし、同じ病原体でも患者によってアプローチは異なるのです。患者中心の医療とはそういうことなのです。「患者中心」とは、単なるスローガンではないのです。

 今回の「インフルエンザA」騒動は、新型のインフルエンザウイルスであったことから、「新型インフルエンザ対策行動計画」に従って、対策が実行され、「弱毒性」であることが判明してからも、通常のインフルエンザ対策に舵を切るということがすぐには行われませんでした。この行動計画自体が持っている欠陥によるものでした。
 
 「我々日本の医療者も、すぐに病原体探し、まずは検査という病原体中心の医療を行ってきました。それを真摯に反省しなくてはなりません。行政だけがけしからん、と主張したいのではないのです。しかし、この危機を乗り越えるとき、指定感染症の規制が現場を苦しめていることもまた事実です。検査、治療、入院/外来サービスの提供は患者の状態から決定されるべきです。病原体だけがそれを規定してはいけません。臨床現場とはもっと柔軟でしなやかなものです。

 製品もサービスも「初期故障」を避けることができません。実際に動かしてみて、運用してみて、「バグ」を取り除かなければなりません。森澤感染制御部長は「一日も早く感染症法上の『新型インフルエンザ』の類型指定から外して季節性と同じ扱いにし、サーベイランスを強化して社会的なインパクトを見極め、行動計画を新しく作っていくことが必要」と指摘し、森兼国立感染症研究所主任研究官は、「(機内検疫は)国内で広がっている中では意味がない。神戸では医療従事者が寝ずに働いており、医療現場に医師を戻すべきだ」と指摘しています。

 5月28日の参院予算委員会で、新型インフルエンザ対策などに関する集中審議が行われました。参考人として国立感染症研究所・感染症情報センターの森兼啓太主任研究官と、羽田空港で検疫に当たっている木村盛世・厚生労働医系技官が招致され、当初の対策が「検疫偏重」だったとの批判に対する見解を示しました。

 2009年5月28日配信の医療介護CBニュースの記事からです。

 森兼主任研究官は「検疫は、有症状者を見つけることに関しては当然ながら有効」とする一方、「それに要する人手と、お金、時間、手間、そういったところのバランスというところではないか」とした。実際の対応については、成田空港の「水際対策」で日本最初の感染者が4人確認された際に、「皆さん、わたしも含めてそちらの方に目が向いてしまって、国内の態勢がワンテンポ遅れた」と指摘。「これは大きな教訓として、第2波以降に備えるべきだと思う。国内の対策も水際対策も、両方とも大事」と強調した。
 検疫縮小のタイミングについては、「国内例が見つかって最初(の16日)から48時間ぐらいで150人ぐらいの患者が検知された。国内でも既に流行しているということが分かった。この時点で国内の検疫体制を速やかに縮小すべきだったと思う」と述べた。これに関しては、19日に舛添要一厚労相に機内検疫をやめて有症状者のスクリーニングに切り替えるよう提言したといい、3日後の22日に対処方針を改めて機内検疫を中止したことについて、「こういったスピード感を持った対策は非常に良かった」と評価した。


 米国ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)公衆衛生大学院疫学部修士課程を修了し、優れた研究者に贈られる、ジョンズ・ホプキンス大学デルタ・オメガ・スカラーシップ(The Delta Omega Scholarship Endowment was established by members of the Alpha Chapter of the Delta Omega Honorary Public Health Society to promote outstanding scholarship and research by providing support to individual students whose research proposals demonstrate merit.)を受賞した(Awardees)経歴のある厚生労働医系技官の「木村 盛世」氏には、「厚生労働省崩壊」(講談社、2009年03月30日刊)という著書があります。その中で次のように述べています。



 「厚労省の医系技官を目指す医師は、病院で患者を診ることはしません。ですから、おのずとその役割が、一般の臨床医とは違います。医系技官の役割は個々の患者の健康状態を考えるのではなく、国民全体という大きな医療・健康問題を扱うことにあります。この意識を持たない限りは医系技官が厚労省にいる必要はないと思ってます。しかし、内部は私が思い描いているものとは大きく異なっていました。 実際の内情は、そうした意識を持っている医系技官はほとんどいません。通常の事務官と同じか、多少医学知識のある事務官といった程度のものです。医学部を卒業したのですから、体の仕組みや、病気についての知識はあります。しかし、新しい病気や最先端の治療方法などは日進月歩ですから、現場で患者を診ている医師に及ぶはずもありません。インターネットや口コミで病気や人体についての情報に接している一般の人たちの知識レベルよりも低いかもしれません。この現実は私に大きな驚きを与えました。 驚きは、それだけではありませんでした。医系技官の知識の少なさもさることながら、「国民の医療・健康問題を自分たちが担っている」という意識があまりにも薄いのです。それどころか、彼らの目的は自分たちの時代には問題が起こらず、平和に天下りしたいという自己防衛だけなのです。

 医療介護CBニュースの記事の続きです。

 一方、木村厚生労働医系技官は「現場としては(検疫態勢は)大して変わっていない。今もかなりの労力をかけて検疫を行っている最中。そういう意味では人的にもかなりの負担を強いられている状況」と説明。
 「検疫偏重」となった理由として、
・「毎日毎日、マスクを着けて検疫官が飛び回っている姿は、国民に対してアイキャッチ。パフォーマンス的な共感を呼ぶ。そういうことで利用されたのではないか」
・「検疫では国が主体となる検疫法に基づいて動くが、国内に入ると感染症法で、地方自治体の主導になる。感染症法という“国内お任せ”をある意味、想定外とした厚労省の考え方があったのではないか」
・「医系技官の中で、十分な議論がされないまま、十分な情報の見直し、収集がされないまま、このような検疫偏重が起こったのではないか」
の3点を挙げた。


 現状の打破を舛添要一厚生労働大臣に期待したいところです。この文脈では、能力に欠ける官僚ではなく、有能な専門家の意見を採り入れて、「新型インフルエンザ対策」を練り直す必要がありそうです。

              (この項 健人のパパ)

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