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No892『ピアノマニア』~理想とする音を求めて~

調律師のドラマといえば、『四季・ユートピアノ』(1980年)。
J.S.バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のメロディが忘れられず
タイトルがわかったのは、数年後で、
今でもこの曲を聴くと、胸が熱くなる。

本作の主人公は、
スタインウェイ社のピアノ調律師シュテファン・クニュップファー。
仕事がまさに天命のように、労を全くいとわない姿がすてきだ。
最初、少しカメラ目線を意識しているようにもみえたが、
段々気にならなくなる。
ピエール=ロラン・エマールという、フランスの著名なピアニストの
レコーディングに至るまでの1年、
エマールとのやりとりを中心に描く。

私には同じソに聞こえる音も
彼らの耳は、広がる音、密な音と、聞き分ける。、
二人が、音を言葉で表現し、伝えようとする。
ピエールの注文にこたえ、
彼の理想とする音に調律しようと懸命なシュテファン。
まるで禅問答をしているような二人の真剣な表情がいい。
シュテファンは、演奏会場の舞台と、録音室との間の階段を行ったりきたり、よく動くし
まるっこい眼鏡の奥の目もくりくりと動く。
よく笑うし、ユーモアもあって、重圧を感じながらも、楽しそうに仕事をしている。
ピアニストから、夢にみた音だと言われたと語った時の嬉しそうな顔。

いかにピアニストの要求にこたえ、ピアニストの求める音を
ピアノから奏でさせることができるか、
録音前日にピアノを交換するという注文にまでこたえようとする姿を
カメラは倉庫まで追いかける。
ピアノをこんなふうに運ぶのか、と感慨深くみてしまった。

グレン・グールドのように、ここでも
ピアノの椅子についての注文が出て
倉庫に椅子を探しに行くステファンをカメラが追う。

マニアということの、すごさ。
ピアノを愛し、ピアノの音を突き詰める。
調律師もピアニストもマニアだ。
彼らにだけはきこえる音の世界のすごさ、深さ、限りなさ。

録音されたテープを再生して、確かめるところでは
録音技師だろうか、楽譜とにらめっこで
本当にわずかな音の高低に気がつく。
極めることのすごさと
極める姿のすてきなこと。
演奏会や録音で、ピアニストを見つめるステファンの熱いまなざし。

彼らの内に秘めた熱さは、スクリーンを見つめる我々まで静かに浸透し、伝染する。
Fight!

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