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No891-2『サラの鍵』~サラを見守る大人たちの哀しく温かな眼差し~

朝の光が差し込む中、ベッドのシーツの中で弟と戯れるサラ。
無邪気に笑うサラをとらえ続けるカメラ。
突然、ドアを乱暴に叩くノックの音で悲劇が始まった…。

冒頭、フランス警察のあまりの乱暴で、非人道的なふるまいが描かれる。
パリのユタヤ人を理由もなく家族皆、逮捕し、ヴェル・ディブ競技場に閉じ込め、
パリ郊外の収容所へと移送する。
収容所で、夫婦を離し、母親と子供を引き離す。
泣き叫ぶ子どもたちと母とを強引に別れさせる残酷な場面は
あまりに生々しく、涙がにじむ。
映画は、このサラの家族をいきなり襲った悲劇の過去のシーンを、
現在のパリで、フランス国家のホロコーストとして雑誌で特集しようとする
女性ジャーナリストのジュリアの姿とを、
音や、場所や、音楽でたくみにつないで、カットバックで描いていく。

競技場からみごとに逃亡を図った若い女が
暗い通路を抜けていくうしろ姿の孤独と不安は
現代のパリの、工事中の誰もいないアパートの部屋で、
一人ぽつんと立ちつくし、苦悩するジュリアの姿に通じるものがある。

ホロコーストから逃れ、生きようとするサラを
かばい、守ろうとする大人たちの姿が強い印象を残す。

収容所で、まっすぐ自分を見つめて名を名乗るサラに
思わず、鉄条網を握って、サラたちを逃がした警察官の手に滲んだ血…。

はじめは邪険にしたものの、危険を冒してサラを守り、
面倒を見続ける田舎の老夫婦。
老妻は、サラにパンと温かいミルクを与え、大丈夫と抱きしめ、
その夫は、いつもずっと寂しげな目でサラを見つめる。
海に遊びに行ったときのシーンがいい。
海を見つめるサラのアップと、
波打ち際に立つサラを心配して、遠くから見守る老夫婦のロングショット。

アパートに住んだフランス人家族が
サラのことを、忘れることなく、
そっと老夫婦に便りを続けていたこと。

サラの夫の
私が人生で出会った中で、一番美しい女性であり
一番悲しい顔をした女性だというセリフ。

ホロコーストで生き延びたとはいえ、
あまりに辛く悲しい思いをし、
深い心の傷と罪の意識を背負ったサラ。
そんなサラに、温かい手を差し伸べた人たちの優しさと、人生の重み。
そして、何十年の歴史を経て、
ジュリアもまた、サラの人生を、サラの悲しみを見守る一人となる…。

原題は『Elle s'appelait Sarah』(彼女の名前はサラと言った)(過去形)
映画の中で、何度も「私の名前はサラ・スタジンスキというの」と名乗った。
ユダヤ人ゆえに味わった恐怖、不安ゆえに、
大人になったサラは、結婚して性を変え、
息子に真実を告げないまま、この世を去る。
それが息子への彼女なりの愛。
何十年もの時を経て、息子に明かされる真実の重みと母の愛の尊さ。

冒頭映し出されたサラの無邪気な顔を、我々はもう見ることはない。
でも、映画の終わり、
ジュリアが、「彼女の名はサラと言うの」と、
フランス語だったか、英語だったかで言う。現在形であることが希望を示す。
そうして、映画は、窓辺から夜景を見入るサラの後姿で終わる。
まさに、サラを見守り続ける大人たちの温かい目線が、観客の目線と重なり、
映画は静かに終わる。

日曜、やっとスクリーンで見ることができた。
混雑のせいか、大阪のシネ・リーブル梅田では、指定席制になっていた。
相変わらずの仕事の山で週末両日とも出勤(…涙)。
見れた映画はたったの2本。
でも、堪能した。 

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