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No1116『クスクス粒の秘密』~ベリーダンスを踊る娘の身体から、思いがにじみだす~

19日、地中海映画祭が大阪、空中庭園ビルのガーデンシネマで始まった。
ちょうど2年前にプラネットで観て記憶もわりと鮮明な作品。(当時の感想
ライヴに行った後、
映画館に向かって歩きながら、グランフロントのあまりの人混みに、
途中で引き返したものの
喫茶店であれこれやっているうちに、元気が出てきて、
やっぱり観に行ってしまった。

クスクス料理を看板にオープンした船上レストランの開店パーティで
料理の上手な前妻の家から、
ソースも魚の入った鍋も全部運び込んだはずなのに、
肝心のクスクスを入れた鍋が行方不明になる。

メイン料理の遅さにいらいらを募らせる客たちをなだめようと
真っ赤な衣装で現れた義理の娘が、ベリーダンスを始める。

カメラは、ビキニの下、娘の露出したお腹や、布を巻いた腰をアップで映す。
まるで、酔った男たちの視線のようにもみえるが、
全くいやらしくみえないのは、
必死で場を盛り上げようとする娘の懸命な思いが伝わるから。
老人たちのバンドが演奏する、本格的なアフリカ音楽の力もある。

観客の誰もが、音楽に酔い、娘の踊りに見入ってしまいつつも、
目前の危機を乗り越えようとする娘の勇気を応援したくなる。
バンドの老人たちと娘とのからみも含め、すごい迫力。

金曜日、神戸で観たのもダンスで、
ダンスつながりだなあ、と思いつつ、アフリカ音楽が頭からなかなか離れなかった。

店の主人の父親は、クスクスの鍋をとりに、前妻の家に帰る。
あいにくの不在で、階下に下りると、
団地の前に止めたはずのバイクを、不良少年たちが奪って、走りまわしている。
老体にむちうって、少年たちを追いかけて走る父。
この父親がわりと無表情で、無言で耐える姿がなんともいえない。
007のダニエル・クレイグをもっと年をとらせて渋くしたような魅力。

かたや、前妻は、家族が目前にしている難儀を知ることもなく、
浮浪者の男に、クスクスのおすそ分けをしようと探し歩いている。
やっと男を見つけて、小さな鍋を渡し、温かいうちに食べなさいと言う、
すぐそこを、夫がバイクを追いかけて走っていく、運命の残酷さ。
すれちがい。

チュニジア移民のくせにと、影口を叩かれながらも、誇りをかけた店のオープン。
クスクスはもともと北アフリカから中東の料理で、
どこか主人公の家族に肩入れしてしまう。

娘が踊る姿をみて、自分も何かしなくちゃと
娘の母が、そっとパーティ会場を抜け、家に帰って、
クスクスを炊いて、大きな鍋を抱えて、
えっちらおっちらと、ひとり、船を上っていく姿がいい。

物事は常に同時並行で起こっている。
父親が団地の広場を走っている時の影の動きも印象的。

終わると10時半で、
止むはずの雨は、逆に勢いを増している。
こういう時に限って、傘を買わずに我慢してたり、
駅3つ分自転車で遠出してたりと、
久しぶりに濡れねずみになった。
映画の中のお父さんの、
黙々とバイクを追いかけて走り続ける姿を思い出しつつ、
やっぱり、夜の雨は冷たかった。

せめて、映画のラストのその後は、楽観的に想像したい。

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