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No857『クスクス粒の秘密』~体温がじわじわと伝わる~

上映前の主催者からのメッセージによれば、
東京映画祭でこの映画を観て、とても興味をひかれ
また観たいと思っていたのに、なかなか配給されないまま。
ならば自ら上映したいと、上映実行委員会をたちあげ、
横浜日仏学院、大阪日仏センター=アリアンス・フランセーズの協力を得て
大阪のプラネット・プラスワンとの共催で
ついに上映へとこぎつけたという。

大阪では11月12日からわずか3回の上映で
続いて横浜で19日に横浜日仏学院で上映されるそうだ。
なんと嬉しいことに35ミリフィルムで、
東京国際映画祭による字幕提供。
こんなすばらしい映画愛に支えられた作品の上映会に
立ち会えたことに感謝。
横浜の近くにお住まいの映画好きの皆様、
ぜひ駆けつけてみてください。
後半、なんとも気を緩められない、
独特でユニークな映画空間が待っています。
映画は2時間半と長いけれど、
私のように、疲れがどっとたまっていて
途中でちょっと寝てしまっても大丈夫。
後半、船上レストランがオープンしてからのくだりが
なんともどきどきもので、釘付けになってしまう。

主人公スリマーヌの家族も皆、個性豊かで魅力的で
開店パーティを、それぞれ手伝うことになるのだけれど
彼への思い入れの度合いや
それぞれの体温がじわじわと伝わってきそうでおもしろい。

【若干のネタばれあります】

舞台はフランス南西部の地中海に面した港町セート。
チュニジア系の初老のスリマーヌはリストラされてしまう。
そこで彼が考えたのが、かつてからの夢の実現。
古い船を買い取って、クスクス料理専門の船上レストランを開くこと。
彼には2つの家族があって、前妻とその3人の子どもや孫、
後妻とその娘リム。

一家総出で開店パーティを手伝うことになるが、
ほぼ満席の客を前に
無事、メインディッシュのクスクス料理をふるまうところまで
たどりつけるか、という、どきどきもの。

後半、その開店パーティのわずか一夜をたっぷりと描く。
思い思いに好き勝手な噂話に花を咲かせる酔客たちの賑やかな会場、
厨房での家族のぶつかりあいと一致団結の様子、
しかし起きてしまったトラブルに、
あわててアパートに戻るスリマーヌがそこで再び出会う災難。
一体どうなってしまうのかと、観客をじらせながらも、
それぞれの空間での人物たちをじっくりと描きとっていく。

踊る娘リムの紅潮した頬と、
今にも倒れてしまいそうな体力を使い果たしそうな激しい踊りには
料理の遅れにいらつく客でなくとも、すっかり魅了されてしまう。
あまりにすごい踊りなので、
もうこの映画自体が踊りの映画と記憶されそうなほど。
かたや、スリマーヌの方も老体にむちうって、必死に走り続け、
彼もまた体力尽き果てそうになっている。
スリマーヌのロングショットと
娘の踊りのアップショットがいい感じにカットバックになっていて
映画の終わり方といい、忘れられない強烈さを残す。

そういえば、以前大阪アジアン映画祭で
『停車』というチャン・チェン主演の映画があり、
みやげにケーキを買うため車を止めた主人公が
二重駐車されて、車を出せなくなり、
車の持ち主を探して、向かいのアパートを次々と訪ねるうちに
いろんな人物のもめごとに巻き込まれていく話。

スリマーヌが、アパートを訪ねるくだりで、
ちょっとこの映画のことを思い出した。
2007年の作品で、フランス・アカデミー(セザール)賞の
作品賞、監督賞、脚本賞、新人女優賞(リム役の女優アフシア・エルジ)を
とっている。
ぜひもう1回見たいです。

主催者のブログを見つけました。
 シネマ・ランタン~日本未公開の不遇な映画たちに明かりを灯すブログ

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