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鴨居玲展~私の話を聞いてくれ~

憂きもひととき
うれしきも
思い醒ませば
夢候よ
酔い候え
踊り候え
   ~「閑吟集」(室町時代)~
      鴨居玲が絵のモチーフにつかった一節~

鴨居玲(1928年~85年)を知ったのは、昨年のこと。
読売新聞夕刊の「芥川記者の展覧会へ行こう」で
没後20年の展覧会が石川県で開かれるとあった。
紹介されていた絵の、どうしようもない暗さにひかれ、
いつか見たいと思っていたら、
神戸六甲アイランドの、小磯記念美術館にきているとのこと。
終了間近とあって、花粉症にめげず、みにいってきました。

予想どおり暗い絵が続きます。
茶色と緑と黒の入り混じったバックに
同じように茶色の人が、目も鼻もはっきりとしないまま
描かれています。
表情は、はっきりとわからないのに、
絵全体から、寂しさ、悲しさ、苦しさが、切々と迫ってきます。
内面をえぐりだす、とは、こういう絵のことを言うのでしょう。

といって、見ているこちらまで、暗い気持ちになるわけではありません。
なんだか、自分の中のもやもやや、どうしようもない部分が
絵の中に表れているような気がして、
いつまでもみていたい気持ちになるのです。
生きてることの不思議さ、得たいのしれなさが漂っている感じです。

鴨居玲は、
若い女性よりも、
おじいさんやおばあさん、酔っ払いを描くのを得意とした画家で、
私は、この老人の絵に、なんともひかれました。

茶色や黒ばかりでなく、赤や青のあざやかな絵もあります。
「ダイス」という絵は、
真っ白のテーブルの上に、伏せたコップが一つ、ぽつんと置かれています。
それを見つめる4人の老人。
バックはまっ青です。
老人の顔は、塗りつぶされていますが、視線ははっきりと感じます。
なんだか映画のワンシーンのようで、
これをファーストシーンに・・なんて考えたくなりました。

一番、ひきつけられたのが
「蜘蛛の糸(芥川龍之介より)」(71年)です。
地獄の血の池の“かんだた”の目の前に
蜘蛛の糸が落ちてくる、まさにそのときを描いた絵でしょう。
かんだたが喜び、大きく口をあけて、
白く光る糸をつかんでいる。
落ち窪んだような目は、うれしげなのに、どこか空ろにみえて、
なんだかせつなく、涙が出そうになりました。

この作家は、自殺願望が強く、
自分を問い続け、模索を繰り返し、
孤独や不安、老い、死を見つめ続けた人でした。
でも、きっと、どうしようもなく生にもこだわった
熱い人のような気がします。

みごたえのある絵ばかりで、思わず画集を買ってしまいました。
画集の絵をみていても、やっぱり涙が出そうになります。
なんとも不思議な画家さんです。

祝日とあって、小さな美術館でしたがが、人の流れは絶えず、
少し嬉しい気がしました。
たくさんの絵をみて、
心の中を冷たいような熱いような風が通り抜けたような気分になりました。

「小磯記念美術館 鴨居玲展」
(美術館のサイトでいくつか絵をみることができます。)
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
独特な暗さが凄い! (mezzotint)
2006-03-30 10:53:51
パラリンさんへ 鴨居玲は二紀会の重鎮的な方でした。知り合いの方が二紀会の会員さんだったので、展覧会に何度か足を運びました。鴨居玲の独特なマチエールはかなりインパクトがありますよね
 
 
 
mezzotint (パラリン)
2006-04-02 22:04:53
こんにちわ。

鴨居玲さんの暗さは、なんともいえません。

ただ暗いだけじゃないんですね。

この深みがどこからでてくるか、本当に不思議です。
 
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