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No571-2『股旅 三人やくざ』~切っても切れない親子の情~

あらためて観直してみて、
第2話の冬編について、もう少し紹介したい。

松方弘樹が演じる若いやくざ。
13歳の時、父親が借金で賭け事に手を出し死んでしまう。
幼いゆえに、田畑は村の人に任せ、
庄屋と、18歳になったら再び田畑を貸すと約束し、
諸国を旅しながら、
墓守からにしん漁まで何でもやって生き抜いてきた。
18歳になり、喜び勇んで村に帰ると
博打狂いだの、あることないこと告げ口され、
庄屋には約束を反故にされ
博打打ちの父親の血をひいているから、もう百姓には戻れまいと
袋叩きにあうようにして、村を追い出される。

以来、人に嫌われ、ダニのゲンタと呼ばれても、気にすることなく
己の腕一本で、渡り歩いてきた。

この世間に背を向けた感じは
前回ご紹介した映画のケンタくんをほうふつさせた。

懐の金めあてで一緒に賭場から逃げた老やくざの志村喬が
ぼろ茶屋の娘、藤純子の実の父親だと知って、
ゲンタは、ふいと変わる。
情にほだされ、
追手から二人を守ろうと
自分の命を投げ出し、追手の中に身を投じる。

村の人には、どんな悪口を言われ
自分自身も、肝っ玉のちっこいおやじと悪態をついていても
やっぱり親父は親父。
そんな親父に素直に思いを告げられず、
腹の中では思っていても、口先に出るときには裏返っちまい、
自分でも歯がゆくて、どうにもならねえ、と老やくざに打ち明ける。

この情が動くところに
ちゃんと自分自身の生い立ちがあるという
しっかりした脚本で、これがなんと中島貞夫監督によるものでした。

松方弘樹は、別に好きな俳優ではなかったが、
この捨て身で、父の位牌をそっと茶屋の前に置いて、
大雪の中、斬りこんで行く姿には惚れた。
死ぬことを「おっちぬ」と田舎っぽい言葉を使わせているせいもあるが、
荒削りで若く、未熟で未完成ゆえの魅力。

これに対し、
完成された美といえば、第1話の仲代達矢。
仁義の挨拶の美しさ、作法のよさ、
相手が誰であろうと丁寧にものを言い、頼む行儀のよさと
落ち着き払った物腰と、
惚れ惚れするような一匹狼。
冒頭数分の川堤から竹林への展開は本当に美しく、
最後は、桜町弘子が船に乗って川の上を滑り去ってゆくのである。
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