goo

No643『くちづけ』~増村監督の魅力がやっと…~

ヨーロッパ映画祭のホール上映作品の1本。
今回の増村保造監督作品の特別上映は、
間違いなく万田監督にちなんでであり、
パンフレットにも、監督の寄稿文が掲載されている。
日曜の晩で、観客は20人~30人程度と少なかったが、
個人的には、他の新作に比べたら
満足レベルは相当に高かったりして…。

うまくいえないけれど
「カメラの力」を感じた。

先日の黒沢清監督の話で印象的だったのは
映画というのは
カメラで「ある方向に向けて、そこにあるものを撮る」こと。
撮りたいものは、連れて来るか、持ってくるか、そこへ行くか
しないといけない。
何でも描けてつくれるアニメとは、そこが根本的に違う。
そして、
たとえば金庫の鍵を投げる動作を写すにしても、
画面の中で「物がどんなふうに、どんな線で動くのか」

黒沢監督が、
小さい頃、漫画やアニメのフランケンシュタインは
大嘘に思えて、好きだけど、のめりこめなかった。
スチール写真で
フランケンシュタインやドラキュラを見て
映画の中に、「実在する」、「本物がいる」と思いこんだ。
そうして、
どうしても本物が見たくて仕方なくて、
家族の反対をおしきって
小学4年生ながら一人で
フランケンシュタインほか、ヨーロッパのホラー映画3本立てを
観に行って、
ものすごく怖かったそうだ。

この話からしても、
映画はちゃんと本物がいる空間、本物らしき空間を
つくりだして、本物と感じさせたのだ。
いい映画って、
そこに人とか物がある空間をどれだけリアルに伝えられるか、
じゃないかと考えたりする。

そして、今日。
増村監督の作品は、
今まで特集とか、懐かしの上本町のACTでも
何本か観て来たけれど、
いまひとつよさがわからなかった。
デビュー作の『くちづけ』もそう。
傑作といわれて観て、へ?とわかんないと思った。
淡々としたドラマが多いから。

ところが、今回、大画面で観て
よくできた作品だと感服。

三益愛子演じる母親が、最後、
刑務所前で、父をさりげなく
猛スピードで通り過ぎるバスからかばう
野添ひとみの姿を
車中で、遠くから見て
「あの娘、乗せてあげようか」と
助手席に座る、息子の川口浩に言う。
そのさりげない口調。
すぅっと車がいって、二人を乗せて、去っていくのを
ロングショットで撮る。
そこに、すっと遠慮がちに出てくる「終」
みごとでした。

ほかにも、ひとみが母親を病院に見舞うときの
カメラ位置の見事さ。
しゃべりながら布巾が干してあるのを取る看護婦達と
受付に訪ねてきたひとみを一画面で撮ってしまう。
あるいは
母親とひとみが病室の外に出て、
座ってアイスクリームを食べるまでをワンショットで
流れるように撮るカメラ。

クライマックスの晩、川口に強引にキスされたひとみが
びんたをして、泣き出して路地に駆け出していく。
カメラは彼女のうしろ姿を追い、
建てかけの建物の横を細い階段道が伸びていて、
そこを駆け上がっていく。
ちょうど銭湯帰りっぽい男が下りてくる。
ひとみは建てかけの建物の暗闇に入って、柱に寄りかかって泣く。
川口が追いかけてくる。
外灯に照らされて、白く光っているかのような狭い階段道の
うつくしかった。

川口がひとみを後にのせて走るバイクは
なんだか風をきって、スピード感があって、新鮮さがはじけている。

あれこれ書き並べたが、
とにかく豊かだなあと思った。
映画ファンの方々には、いまさら何を書いているのかといわれそうだが
一人合点かもしれないが
ちょっとずつでも増村監督の魅力がわかってくるといいなと願う。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 23日万田邦敏... No644万田監督... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。