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No1113-2『ヤンヤン 夏の想い出』~ひとりを抱きしめる時間~

この映画に出てくる、どの登場人物も、ひとりを抱きしめている…
そんな感じがする。
ひとりであること、ひとりでいること、ひとりの時間を抱きしめる。
徹底的な孤独。

大人になることは、きっと、自分だけの深い穴を掘っていくこと。
その穴には、悲しみや怒りや切なさや、いろんな思い出がいっぱいつまっていて、
年をとればとるほど、どんどん深くなっていく。

孤独という名のその穴は、決して人に見せることはできず、
上に一本、ロープを張って、綱渡りのようにして立っている。
他人にはみえないけれど、
あぶなっかしくて、いつ落ちてもおかしくない。

家族ができ、友達ができ、
穴の上に、うっすらと膜ができる。
強くもあり、時に弱くもあるその膜は、
いつ破れてもおかしくない…かもしれない。

こどもは、きっと浅い穴を幾つも持っていて、
ぴょんぴょんと、一跳びで跳んでいく。
好奇心いっぱいで、次々と。

大人は、もう跳ぶこともできず、
自分という、たった一つの深い穴の上に立っている。

誰ともつながることができないのか、
誰かとはつながることができるのか。

徹底的な孤独と諦念の果てに、
ヤンヤンのあの無邪気な顔がある。

村上春樹の小説にも、たくさん穴が出てくる。
深く深く掘っていく穴。
心の底へ。
そうして、他人と、歴史と、
その穴はつながっているのだろうか。

ヤンヤンの父が、ひとり、夜明け前か早朝、
熱海の海の防波堤のようなところで、
ひとりうずくまっていた姿が忘れられない。

ロングショットのひとつひとつが、たとえようもなく美しく切なく、
おばあちゃんの膝の上は、どこまでも温かく、
きっと、ティンティンは、芯から眠ることができたにちがいない。

この頃、ずっと夜更けに聴いているベートーベンの「月光」が
この映画によく似合うような気がする…
のは私だけでしょうか。

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