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No1115『わが谷は緑なりき』~魂の絆~

観終わって、映画の中の登場人物たちの心意気、愛情、生き様、いろんな心情が
怒涛のごとく一気に押し寄せてきて、
イギリス、ウェールズ地方の民謡の歌声と重なり合い、
歩きながら、ただもう涙があふれてきて、しかたがなかった。

どんな絆よりも深く強い何かを映画との間に感じた。
私の中の私が、どうしようもなく映画の中の魂と結びついた。
求めてやまないものが、流れている。
“父なるもの”…かもしれない。
強く生きていく心意気、信条。

少年ヒューが父親からあらゆることを習ったと映画の冒頭のモノローグにあるように
私自身もヒューといっしょに
炭鉱で生きる父の生き様を、その背中を見つめながら追いかけていた。
血の通った教え。
喧嘩して怪我だらけで帰った息子に、傷一つにつき小遣いをやるという父、
教会への敬意を教え、安息日に騒ぐと叱りつけた父。
ドナルド・クリスプ演じる父親の生き様は、静かで、
慈愛と威厳に満ちていた。

そして、あたたかく、やさしい母(サラ・オールグッド)。
Aの蛇口から毎分◇㎥、Bの蛇口からは△㎥水が入っていて、
Cの穴からは◆㎥出ていく風呂桶を満杯にするまで何分かかるかという算数の問題を
父と一緒に解こうとする息子に、
穴のあいた風呂に誰が入るかね、とつっこみを入れる。
思ったことをずばずばと口にしながら、どの言葉にも愛情があふれている。
素朴で率直な会話が楽しい。
正義感にあふれ、
夫が、誤解が元で、炭鉱の仲間から孤立しそうになった時には、
ひとり演説をふるう。

この両親の生き様、表情に心奪われる。
この映画を観るのは何回目かで、傑作といわれつつ、よくはわからなかった何か。
若い頃にはわからなかった何かに、
やっと少しだけ近づけた気がする。

牧師(ウォルター・ビジョン)が、村を出ようとする別れ際、
ヒュー少年に父の形見だと懐中時計を贈る姿。
牧師が、病気で寝たきりの幼いヒューを励まし、
いつか必ず歩けるようになると勇気づける姿に、深い人間味を感じる。

フォード監督の作品の多くで描かれる悪意についても触れるべきだろう。
悪気がなくても、悪意は悪意。
周囲に流され、悪意に染まりやすい群衆の姿が、この作品でも描かれる。
牧師と相思相愛でありながら、望まぬ縁で他家に嫁いだものの、
牧師のことを忘れられずにいる姉。
そんな姉と牧師のことを、口汚く噂する村の女たち。
そういう悪意もすべて乗り越えてのラストである。

最後のシーンで感じるのは、死者との絆。
炭鉱事故で亡くなった長兄、そして父との絆。
亡くなった家族、町を離れ、遠くに旅立っていった兄たち、
たくさんの人たちの感情の流れ、生き様が一気に、
あの美しい民謡の歌とともに、心になだれ込んできて、涙が止まらなくなる。

19世紀のウェールズの炭鉱町を舞台に、ある一家を描いた
ジョン・フォード監督の人間讃歌。
1941年の作品『HOW GREEN WAS MY VALLEY』

追記ながら、
炭鉱の映画を、内外問わず何本も観ているといろんな風景が重なり合う。
昇降機が上がってきても、つるはしやスコップのほか
誰も乗っていないのを目にした時の悲惨な気持ち。
昇降機の上がり下がりの動きが、ぐいぐいと心に食い込んでくる。
岩盤事故で、閉じ込められた父を救い出すため、
昇降機に乗り込むのが、ヒューと牧師のほかに、
かつて幼いヒューに喧嘩を教えた、
盲目の拳闘家とマネージャも加わるところが泣ける。
男の友情、絆がここにも深く息づいている。

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