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No430『斬る』~斬る!と突き!の掛け合い~

出だしは黒澤明の『用心棒』。
片腕をくわえて登場する犬の代わりにやせこけた鶏。
5日間水しか飲んでない、ひもじい浪人とやくざの
食べ物をめぐるやりとりがおかしい。
ビデオで観た時より、スクリーンで観たほうが、
数段、冒頭の砂嵐がとてつもなく強いことに圧倒された。
とんでもない風だった。

侍になりたい農民あがりの浪人、高橋悦史と
侍が嫌になり、無宿者になった仲代達矢。
二人のかけあいが見事。
敵味方にわかれ、ドラマの要所要所で顔を合わす。
岡本監督のセリフのリズムの心地よさ。
ばか力の高橋の「突き!」の勢いのよさ。

主役並みにインパクトを残すのが岸田森演じる、浪人組の組長。
岸田と仲代が向かい合うシーンはもう一つのクライマックス。
見張りをしている高橋にそっと声をかける時の、和らいだ表情もいい。
私も高橋と一緒に「組長!」と呼びたくなった。

悪代官の神山繁も、悪党そのもの。
仲代の正体が気になって、強気になれない弱さがいい。
飼っている猫も大活躍。

私の好きな東野英治郎も、あくびばかりしている家老で、
とぼけたセリフに、場内で笑いが何度も起きていたのがうれしい。

クライマックスのチャンバラシーン。
「勘定目付の登場!」との声に、一同、動きを止め、固唾を呑む。
静けさの中、遠くから聞こえてくるのは・・・
え!??
この大騒ぎには、ただもう感動の涙。
この乗りはマキノでしかない!

仲代を捜しまわる高橋と子分の叫びが
騒ぎの音にかき消され、
高橋のひきつった表情・・と
場面はすとんと変わって、
ぼろ笠を開く仲代とくる。
この場面転換の見事さ。

森卓也さんが、喜八さんのアクションつなぎが爽快だと
指摘されたが、
本当に見事なほど気持ちよい。

冒頭とラストはともに、地蔵様が見守る街道筋。
会社からは『椿三十郎』をつくってほしいという依頼だったとか。
『斬る』もどちらも山本周五郎の原作で、違う小説なのだけれど、
原作の話自体が似ているため、似たような話になったらしいです。

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