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No1260『みんなの学校』~共感する心~

十三の第七藝術劇場で好評のドキュメンタリー映画。
少し前に『バベルの学校』というフランス映画をご紹介したが、
こちらは、日本、しかも大阪の小学校の一年間をとらえる。

舞台は、2006年に開校した大阪市立南住吉大空小学校。
学校の目標は、「不登校ゼロ」。
特別支援教育の必要な、発達障害がある子も、
自分の気持ちをうまくコントロールできない子も、
みんな同じ教室で学ぶ。

全学年で220人ほどの生徒のうち、
30人以上が特別支援が必要な子どもたち。

登校拒否で、学校から逃げ出そうとして
校門で教師につかまった子どもを
同じ教室の子どもが、迎えに行く。
子どもが、泣いてる子どもをさすってあげる。

教室から逃げようとした子どもを追いかけようとして、
廊下で転んでしまった先生のところに、
子どもが戻ってきて、
先生のお尻をさすって「痛かったね」と言う。

さりげなく、自然に見せる子どもの優しさに、心打たれる。
大切なのは、思いやり、共感する心、優しさ。
子どもたちは、ちゃんとその心を持っていて、
うまく外に出せないだけかもしれない。

大人になった私たちが、つい忘れがちなものを
子どもたちは、時に、意外なところで、
さらりと見せてくれる。
そういう優しさこそ、心にじんわりとくる。

学校の評判をきいて、
登校拒否で悩んでいる親御さんたちが、引越しして、
この学校に転校させる。

他の学校では、登校拒否だった子どもたちが、
学校に行けるようになる。
まわりの子どもたちが、その子を見る目が変わったからだという。
子どもが、いかに敏感か。
傷つきやすいナイーブな心を持っているか。

私が、この映画を観ていて、
特にすごいと思ったのは、
子どもたちに対して、
「自分がどう考えるか」、「どう感じるか」と
一人ひとりに考えさせているところ。
「自分の言葉で返してください」と先生は子どもに言う。
大切なのは、「自分」。

「みんなの学校」というタイトルも、
子どもたちが安心して、いることのできる学校であり、
一人ひとりがつくっている学校、ということ。
「みんなの学校」とは、いいかえれば、
子どもたちにとって「自分の学校」といえるということ。

だから、みんなが安心していられるための最低限のルールが、
「自分がされて嫌なことは人にもしない」
だから、暴力も暴言もだめ。

女性の校長先生は、
このルールを破った子には、厳しく指摘し、考えさせる。
でも、根底には、包み込むようなあたたかさがある。

これは教師も同じ。
少し感情的になって、生徒を大きな声で叱ってしまった見習い教師に、
校長先生は、「そんなふうなら、教師になるな」とまで言う。

厳しさは、期待の裏返しでもある。
その見習い教師に、いいことがあれば、
校長先生は人一倍喜ぶ。
あたたかさに裏打ちされた厳しさなら、
人はしっかり伸びていくことができる。

子どもたちのささいな変化、揺れ、兆しを、
先生たちは、見逃すことなく、
見つめ、しっかり受け止める。

一人ひとりが、ありのままに受け入れてもらえる学校。
難しいけれど、それを実現しようとしている。

「子どもたちが、皆で力をあわせて、ひとつのことをやり遂げるのを見て、
感動した」という親御さんの感想が心に残る。

学校という現場は厳しい。
ごまかしがきかない、敏感な子どもたちを相手に、
教師の人間性もたえず問われる。

この学校のいいところは、
教師同士も力をあわせること。
失敗したことを、一人で抱え込まず、
他の教師たちに言ってしまえる。

それを聞いたほかの教員が、いい知恵を出してくれたり、
いろんな教員が手をさしのべてくれる。
そうして、
生徒について何かあれば、
教員がみな、その子についての情報を共有し、
みんなでほめていったり、注意したり、
きめこまかく、対応していくことができる。

働きやすい組織の姿といえるかもしれない。

責任を押し付けあったり、
目にみえる成果ばかり追い求めがちな組織が多い中、
この学校は、ひとつの理想形として、たち現れる。

校長先生はこうも言う。

子どもたちが、
今の自分の力をどれだけ伸ばす努力をしているか。
もともと100メートル泳げる子もいれば、
全く泳げない子もいる。
どういう時に、子どもをほめるか。

全力で人と関わること、
それは、とても大変で、しんどいことでもあるけれど、
この学校の先生たちの、すがすがしい笑顔や、
子どもたちにいいことが起きた時の嬉しそうな顔、
逆に、見た目がうまくいっている時に限って、問題が起きるという、
経験に裏打ちされた、油断しない心の準備。

子どもたちの生き生きした表情、笑顔、
感謝の言葉、頑張る姿に、
元気をもらう。

いろんな意味で考えさせられた。
私にとっては、平日は、一日8時間以上を過ごすのが、職場。
そこで、自分がどうあったらいいのか、
人とどう関わっていったらいいのか、
なかなか人間ができてなくて、格闘の日々だけど、
こういう映画を見ると、励まされる。
なんとか自分なりにやっていきたいと思う。

随分前に観て、なかなか書く余裕がなかったですが、
こうして思い出すと、感慨深く、お薦めです。 

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