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No1059『甘い抱擁』~あまりに強烈で残酷な…~

ロバート・アルドリッチ監督の1968年の作品。
原題は『THE KILLING OF SISTER GEORGE』
映画を観た後で、このタイトルを読むと、
なんとも残酷な、と思うしかない。

ジューンは、
イギリスのBBCの人気テレビ番組でジョージ役を演じる人気女優。
しかし、いまや中年を過ぎ、人気も下り坂。

若い女性アリスと暮らしているが、
ジューンは、お酒ばかり飲んで、ヒステリーで、
怒るとやたら下品な言葉を投げつけ、手に負えない。
アリスに、ほかに男がいるのではと、疑い深く、
嫉妬心をそのまま怒りにして、ぶつけてくる。
若いアリスは、ジューンのかんしゃくには、我慢に我慢を重ねてきたが、
それでも、家を出て行かないのは、
何十年も一緒に暮らしてきた仲と
ほかに行き場もないせい。

映画は、冒頭、バーで、ジントニックを頼み、
なんども自宅に電話をかけ、「今から帰るから」と怒って、電話を切り、
家路に向かうジューンの姿から始まる。
いそいそと、怒って歩いていく、たくましいおばちゃんの姿は、
映画の最初でジューンを印象づけるのにぴったり。

ベリル・リードという、ジューンを演じる女優は、当時48歳。
舞台でも、この役を演じて、トニー賞をもらったという舞台女優。
とにかく、このジューンのかんしゃくがすごいし、
アリス役の、スザンナ・ヨークとのやりとり、
二人の表情の変化に釘づけになった。

ジューンのワンマンぶりは、相当で、
ときに、アリスが可愛そうにみえるが、
後半になるにつれ、ジューンの悲哀がみえてくる。

なんとか、ジョージを殺す脚本をつくって、
ジューンを、番組からはずそうとする、テレビ局上層部の企みに
敏感に反応して、たてついたり、悪態をつくジューン。
なんとも痛ましいけれど、その姿はどこか、老いたゆえの哀しさもあって
とても他人事として観ていられない。

「棺桶さえ、にせものなのね」と叫んで、
深夜、人のいないスタジオで、ひとり、ライトから何からめちゃくちゃに壊しまくる。
彼女に死という結末を与えなかっただけ、
救いとみるか、残酷とみるか、それは観客の想像におまかせ。

それにしても、酔っ払っては、悪態をつく彼女は相当にしたたか。
番組の出演中でも、死んだ役なのに、むくれた表情をして、笑わせてしまう。

女優としては、強気でも
ひとりの女性としては、孤独で、さみしがりやで
アリスと喧嘩して、耐えられず、ひとりで声をあげて泣いたりするのが、悲しい。

アリスをジューンから奪う、テレビ局の管理職女性を演じるのが
コーラル・ブラウン。
アリスとのレズのシーンは、観ていてぞくっとするほど、真実味があった。

今日は、神戸映画資料館で
『時』という木村卓司監督の新作が上映され、駆け付けた。
いつもながら、本当にきれいな映像を撮る方で、
彫像の女性の横顔がどうして、こうもきれいなのか、
横たわっている裸像の女性の絵が、こんなになまめかしくみえるのか、
そこに風に揺れるカーテンか何かの影が映ったりして、
映像の美しさにうっとりしたものの、
サイレントで、物語もないのと、
前夜の飲みすぎがたたって、睡魔に襲われてしまい、
ちゃんと鑑賞できず、残念無念。

物語のある映画を観ようと、
今までずっと残業やらで全然行けてなかったアルドリッチ特集に今日こそはと、
念願の1本目が、本作。
あまりの強烈さに、すっかり目が冴えてしまった。
現実は、かくも過酷で残酷で、後味はよくないが、
その人間の迫力は、余韻として強烈に残った。

そういえば、金曜の晩、私も酔っ払って、帰り道、
迷い猫と遊んでいて、なぜか涙が出て、ひとりで泣いてしまったりして、
ジューンへの共感度大でした。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
それはもう (ケンシロウ)
2013-03-25 12:42:40
アルドリッチ大大大大大大大大センセイには勝てる訳ありまへん。
 
 
 
ケンシロウ様へ (パラパラ)
2013-03-26 01:38:58
アルドリッチすごい迫力でした。登場人物の追い詰め具合は、並々ならぬものがあり、そこから見えてくる真実味。すごいですね~。
『時』全部ちゃんと明瞭な意識で観ることができず、すみません。でも、やはりインパクトが大きかったので、印象的なショットは、結構焼き付いています。また大阪で上映できるといいですね。
 
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