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「花のワルツ」(川端康成)~きわめて女性的な。~

川端康成は、
ノーベル文学賞を受賞した文豪。
ゆえに、今まで、妙に手が届かなかった。

でも、この年になってみると、
実家の古いダンボール箱の中から出てきて、
捨てずに読んでみようと持ち帰ったのは、
文豪ゆえかもしれない。

若い時分に読んだかどうかもわからない
昭和51年の古い文庫本。

読んでみて、とてもおもしろい作家だと発見。

「イタリアの歌」
タイトルからして、美しい世界かと思えば、
いきなり研究室で火事が起こり、
全身火だるまになった研究者の博士の描写から始まる。
凄惨な光景なのに、
冷静に、緻密な言葉で書き込まれていて、
感情のない観察者のような、冷めた目線に驚かされた。

病院にいる他の患者らの姿も描写され、
噂話や老夫婦の会話が、耳元に聞こえてくるようで、
古い病院特有の、重くて冷たい空気感が伝わる。

そこに、ふいに、
火事で一緒に火傷を負った博士の婚約者の歌声が
聞こえてきて、
なんだか不思議な、切ない気持ちになる。

よくこんな物語を考えついたと思う。

「日雀(ひがら)」
鳥好きの男が、外に女をつくる。
昭和の文学には、よくある話。
男は、旅先で、すばらしい鳴き声の日雀を見つけ、
手に入れたいと思うが、
同伴していた女に反対され、
買えなかった。

運命の歯車で、
その日雀は、男が留守の時に、
家にいた女房の元に届けられる。
女房は、男の浮気に感づいている。

男は、女のことが、女房に知れると、
しれっと謝って、女と別れる。
あるいは、女にふられる。
でも、男は、その女のことを忘れて、
また別の女をつくる。
別れた女は男のことを忘れているのに、
女房だけが、そのことを忘れられずにいる。

届けられた日雀を飼う事になり、
女房が一人で、美しい鳴き声にじっと聞き惚れているところで
物語は終わる。

かごに飼われた小鳥が、女房と重なり合う。
あの時代の女性の孤独がしんみりと伝わってくる。

「花のワルツ」
バレエ教室のトップダンサーの女性二人と、
教室の先生、先輩のダンサーの男性二人の物語。

先輩は、ダンスの勉強のために渡航したものの、
けがをして、松葉づえをついて、こっそり帰国する。

田舎の自然の中で、自由気ままに踊る女性の美しいこと。

女性は、それぞれ先生や先輩に恋心を抱いているが、
二人とも、少し風変わりで、
思いもよらない行動、
思いもよらない場面転換に、驚かされる。

この作家、ちょっと変わってるなあと思う一方で、
なんだか限りなく美しい世界が広がっているようでもあり、
不思議な気がする。

「朝雲」
赴任してきた女先生を一途に慕う女子学生の独白の物語。
何通も手紙を書いても返事がない。
とうとう先生は学校を辞めて、遠くへ行ってしまう。

見送りに行った時、
去っていく汽車を隠した山際にかかっていたのが「朝雲」。
その後も手紙を書いても返事はない。
「あの方の思い出はもう胸を痛めない。今私は静かにしている」という言葉で
物語は閉じられる。

全体を通じて、やはり、すごく女性的な作家だと思った。

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