goo

No630『どたんば』~闇の中、泥まみれの救出劇~

テレビ放送が始まったばかりの昭和31年に
三國連太郎主演で、全編生放送のスタジオドラマとして撮影されたものを映画化。
ある炭坑で起きた落盤事故を軸に
4日間にわたる救出劇を描く。
橋本忍脚色、京都文化博物館での内由吐夢監督特集の1本。
みごたえのあるドラマで、上映後は、拍手が鳴り響いた。

梅雨時、縦坑から水漏れがしていたかと思うと、
一気に水が溢れ出し、
坑内の採掘場(切羽)に5人が生埋めになってしまう。
閉じ込められたのは、志村喬、江原真二郎ら。

小さな炭鉱で、縦坑一つに、坑道は北と南に伸びる。
人や石炭を上げ下げしていた縦坑が土砂で埋まり、
坑道は水であふれ、
5人は、南の一番奥のところに閉じ込められてしまう。

映画は、救出する側をメインに描く。

炭坑で働く坑夫たちの強い連帯感が心に残った。
落盤事故は、毎年、数回は起こり、命を落とす者が出る。
採掘は危険な仕事だ。
坑内に閉じ込められた時は、
仲間が必ず助けに来てくれるという信頼感だけが、心の頼りだという。
だからこそ、
助ける側は、命を張って助けに行くし
助けられる側は、仲間を信じて、暗闇の中じっと助けを待つしかない。

排水ポンプを坑道に設置するシーンなぞ
真っ暗で何をどうしているのか、よくわからないが、
とにかく臨場感にあふれ、眼が離せない。

排水量と注ぎ込む水量が同じで、
救出作業は思ったようにはかどらない。
潜水夫に潜ってもらうが、潜水服では狭い坑道で動きがとれない。
もう一度潜るよう懇願されて
潜水夫の「潜水服でも動きやすいように
もっと水を戻して入れてくれ」という言葉には、
まさか、と凍りついてしまった。
そんなことをすれば、坑内は水であふれて
5人を水死させてしまう危険性があるからだ。

不眠不休の作業にすっかり疲弊し、難航する中、
救出側も、家族も、それぞれの自分の事情で
頭が一杯になっていく。
この潜水夫の発言はもちろん、
責任を感じて首を吊ってしまう坑夫長や、
救出作業の途中で
酒を飲むため救出作業を手伝いに来ただけ、と揶揄されて
激怒し引き上げてしまった朝鮮人坑夫たち、
5人の家族に責め立てられ、
零細企業の事業主として、補償のことが、脳裏によぎり、
頭がいっぱいになってしまう炭鉱主の加藤嘉、
しかりだ。

そんな中、
炭坑の前に座り込んで、太鼓を鳴らし念仏を唱え始める坊主が
独特の存在感を残す。
子どもに何をしているのかと聞かれて、
坑内の5人が何も食べられないのと同じように、
断食をして5人の無事を祈っているのだと話す。
子どもは、罪悪感を感じて、手にしていた、食べかけの卵を投げつける。
この坊主役の高堂国典が、すごくいい。
救出メンバーの東野英治郎が、いらだち、うるさいと怒れば、
「もう少し離れるとしよう、でも太鼓はやめんぞ」と優しく言う。
自殺して、運よく助けられた坑夫長のことを、
加藤が責めれば、
「人柱になろうとしたんじゃないか」とかばう。

そして、やっと加藤が気付く。
橋のたもとで、妻に話す言葉が、映画のタイトルとなる。
「俺は自分の土壇場しか考えとらんかった、
閉じ込められた者たちの土壇場を考えておらんかった
何があっても救わなければ…」

早朝のシーンがいい。
事故から4日め。
朝鮮人坑夫たちに再び、手を貸してくれと、加藤は説得にいく。
しかし、早朝、説得に失敗し、自転車で一人帰っていく。

一番列車が汽笛とともに到着し、
かつて一緒に働き、今は遠くの炭坑に働きに出ていた兄貴分が
事故の報道を聞いて、一路帰ってくる…。
朝鮮人坑夫のリーダー格の岡田英次が、仲間たちに呼びかける。
「このまま放っておいていいのか…」。
事態好転のきざしが朝の訪れとともにやってくる。

そうして、ヘリコプターから舞い散る紙吹雪が感動的だ。
昼間の空を写す明るさがうれしい。

縦坑の上下を移動するゲージのウィンチを操作するのは、
可愛らしい少女のミチ。
徹夜作業の合間に、家に帰って休んでおけ、といわれても、
坑内の5人のことを思うと帰っても眠れないからと
持ち場を離れない。
そんなミチの健気な思いが伝わるからこそ、
ラスト、ミチが、救出のクリンチをまわす後の窓の外で
紙吹雪が、明るく待っている光景がすばらしく
胸に迫ってきた。

なんともすごい骨太な人間ドラマで
さすが『飢餓海峡』の内田吐夢監督と圧倒されました。

ところで、末尾ながら
11月に
大阪九条のシネ・ヌーヴォで
『信さん 炭坑町のセレナーデ』が公開されます。
『愛を乞うひと』の平山秀幸監督が、自分の故郷でもある九州随所でロケをし
福岡の炭坑町を舞台とした、ヒューマン・ドラマ。
小雪、池松壮亮、石田卓也、大竹しのぶ、岸部一徳らと
キャストも豪華で、
シネコンで上映されそうなメジャー作品ですが、
幸運にも、大阪では、シネ・ヌーヴォでの上映です。
11月10日の特別先行上映には、監督の舞台挨拶もあります。
ぜひお楽しみに。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« No629『十三人... No631『雷桜』... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。