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桜の迷宮

夜桜ってこわいと思う。
少なくともひとりで見る夜桜は。

今日、仕事を早めに切り上げて、
川沿いの桜並木を歩いて帰った。
30分近く歩いた頃、
大きな桜の木を見つけた。
満開できれいだったので、
なんとなく、近くまで寄って、
幹の近くから真上を見上げたら、
桜の花が一面に広がっていた。

桜の花の、そのまた奥も、桜で、
ずっと奥の方まで、延々と
桜が折り重なって続いているようで、
あまりのきれいさに
吸い込まれるような気がして、くらくらした。

桜の迷宮ならぬ、桜の宇宙だ。
あまり明るくもなく、人も少なかったから、
よけいに、別世界だった。
桜の樹に話しかけられたような気がする。

春の透明な青空の下では、
白く満開の桜は、ひたすら美しい。

大勢の花見客が、お酒の匂いをふりまき、
にぎやかに、楽しそうに騒ぎ、
店のライトが煌々とまわりを明るく照らしているところでも
桜は、おすましして、きれいな顔をしている。

でも、どんよりとした曇り空の下、
三日月もいつのまにか雲の陰に隠れ、
電灯もなく、少し薄暗いところになると、
桜の樹は、いきなり正体を現す。

夜の闇に彩られたような黒々とした枝が、
ぬっと行く手をはばむように、ごつごつと伸び、
白い花がみっしりと咲き誇っている。

桜の花の白さが、ぼんやり、
闇の中に、ぽっかりと浮かび上がり、
不気味な世界が広がる。
妖艶で、どこか白装束を思わせた。

黒い枝と白い花とのコントラストが、あまりに対照的なせいか。

満開の桜の樹には、緑の葉がないから、対話がない。
黙々とそこに立っているだけ。
どこまでも、白さと闇の暗さだけが、連なっていて、
無言の風景がたちあがる…。
夜の薄暗闇の中、人を惑わし、こわがらせる。

黙々と連なる桜並木を、川の揺れる水面を眺めつつ、
私は憑かれたように、
どこまでも歩いていきたい気分だった。

坂口安吾の「桜の森の満開の下」とか、
梶井基次郎の「桜の樹の下には」を思い出した。

現実には、段々と人が少なくなって、
仲睦まじいアベックばかりが目立つようになって
あっさりひきかえすしかなかったのだけれど。

このところ、残業しながら
ひとりで、職場の窓から、
川べりのライトアップされた桜並木を眺めては、
桜が見たい、ビールが飲みたい、とぶつぶつ叫んでいたので、
たまに、違うことをすると、
新しい発見をして、生き直したような気がする。

仕事も根を詰めすぎて、無理をすると、心にもよくないし、
いろいろとエネルギーが尽きかけていたよう。
昨日、1日に異動してきたばかりの上司に
「肩に力が入ってるみたい」と言われて、
新米でもないのに、私は一体何をやっているんだろうと、
思わず自問自答してしまった。

「夜桜に 合うはビールか 日本酒か」
     花見で酔った人々を眺めつつ、自分も心の中は同じ酔客だったよう・・

「夜桜を 窓から眺めて ひとりごつ」

「夜桜を 眺めて泣くは われひとり」

とつまらない句が、本日の散歩の成果。

4月、年度の変わり目で、
いろいろと、くよくよ、めそめそ、どきどき、ばたばた、あたふたと
毎日やっている。
それでも、いやがおうでも、
一日一日が確実に過ぎ去っていて、
せめて、私は、心の中で、小さな物語を紡いでいって、
いつか誰かに伝えられたらと思った。

言霊を拾いに、こころに「言葉のスケッチブック」を抱えて
今日みたいに、ひとり、歩いていくしかないようです。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
桜のこと (tamako)
2014-04-08 20:40:25
一つの事を考えつめようとしても
もう次の考えにうつってしまいます

外のけしきが一日一日と
うつりかわってゆくからです

おばけのような桜がおわったとおもうと
遅咲きの八重桜

すみれやれんぎょう 花厨王

黄色い山ぶき 雪柳

なんとすごい
なんとすごい
季節でしょう


~大島弓子「綿の国星」より~

何のためらいもなく、桜を「おばけ」と言い切ったのがすごくて、忘れられない作品です。

ぱらぱらちゃんの夜桜のお話をゆっくり読み返していて、思い出してひっぱり出してみました。
 
 
 
たまこちゃんへ (ぱらぱら)
2014-04-08 23:58:10
読んでくださって、ありがとうございます!
おばけのような桜、って、すごいですね~。
でも、なんとなく、夜桜でなくても、昼間の桜でも、イメージがわくから、おもしろいです。

大島弓子さんは、魅かれつつも、あまり読んでなかったので、すてきな言葉と出会わせてくれて、ありがとうございます!!とってもうれしいです。

大島さんのこの言葉を読んでいると、
春のこの季節に、こうして外に出て、花を眺めたり、外の空気を吸うことができるって、なんて幸せなことなんだろうと、思わずにはいられませんね。

 
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