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No1288『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』~土壇場が重なった男の生き様が伝わる…~

夜、一人の男が、
荒々しく鞄を車に投げ込み、運転を始めるところから映画は始まる。

運転中、次々と電話がかかる。
ナビ画面に相手の名前が映る。
初めは誰かわからなくても、
妻、上司、同僚…と、
会話や言葉遣いから人間関係がわかっていく。

画面に映る登場人物は、車を運転するロックただ一人。
高速道路を運転しながら、
ひたすら、いろんな人と電話でしゃべっているだけの84分。
退屈しそうに思えるが、
これが、なかなか緊張感にあふれていて、とてもおもしろかった。

ロックが車を運転しながら、
どこにもやり場のない思いで、いらいらが募ったり、
ハンドルを叩いたり、舌打ちしたり、
冷静を保とうとしたり、いろんな表情をみせる。

電話の向こうの相手の声の表情や間から、
相手の状況や思いもリアルに伝わってくる。

設定がうまい。
ロックは、10年近く、コンクリートの現場監督として、
真面目に仕事をしてきて、
まさに明日、高層ビルの基礎に生コンを注入するため、
何十台ものミキサー車が来るという最大規模の工事があること。

ロックが仕事優先だったとはいえ、心中では、
妻を愛し、息子たち家族をとても大切にしていること。

ゆきずりで、つい一夜だけの関係を結んでしまった女性が妊娠し、
出産に立ち会うためにロンドンに向かっていること。

仕事も家庭も何もかも捨てて、ロンドンに向かうところに、
ロックの決断があり、誠意があり、
女への違った意味での愛がある。

妻には愛していると自然に口にできても、
女には、そう言ってほしいと求められても、言えない。
むしろ、「愛してるわけない」と軽口で言ってしまうところに、
ロックの人となりが伝わる。

コンクリートの工事という二度とやり直しがきかない仕事ゆえの
緊張感が全編をおおう。
仕事の土壇場と、家庭の土壇場が重なる。

家では、応援しているチームのサッカーの試合がテレビ中継されており、
普段活躍しない選手の奮闘に、息子達が興奮して応援している。

電話の向こうの声の臨場感も、
電話を切った途端に、一瞬で、相手が切り替わっていく。

だから、映画のテンポもよく、一気に見せられる。

いきなり、ロックに代わって現場の監督を任された同僚の不安、当惑、
準備がうまくいった時の高揚した声は、生き生きとしていて、
その姿がみえるようだった。

ロックは運転しながら、しゃべっているから、
いつ、事故を引き起こすとも限らない。
そんな心配もしながら、
窓ガラスの向こうできらめくヘッドライトの美しさに見とれる。

ロックが、後部座席に座っていると思われる父の亡霊に向けて
しゃべりかけるのがいい。
父の亡霊への語りから、ロックの生きざま、信条も伝わる。
父の生き方を超えること、
自分なりに考え抜いた上で、責任をとること…、
ロックの苦悩がしっかり描かれるから、みごたえもある。

ロックを演じるのは、トム・ハーディ。
まさに名演技。
前回ご紹介した、『マッド・マックス~』でもヒーローを演じ、
これからが期待される俳優の一人。 

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