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No433-2利重剛さん、岡本喜八監督の現場と魅力を語る(後篇)

◎監督からのアドバイス

当時、既に役者としてテレビに出て活躍もしていた利重さん。つくりたい映画はあるものの、役者になりたいか監督になりたいか迷っていた。監督がアドバイスしてくれたのは、「撮影所システムも、数年後には崩れるかもしれない、役者として活躍して有名になっておけば、いつか自分で監督できる機会が回ってくるし、役者をやっておいた方がいい。」
「毎晩寝る前に1ページでいいから脚本を書きなさい、毎日書いて1年経てば365ページの脚本ができあがる」と黒澤明監督からのアドバイスをそのまま伝えてくれた。
それから「一度でいいから助監督につきなさい。自主製作では、シーンを撮るのに3日かも4日もかかっているでしょうが、プロの現場にいけば、効率を覚えられるはず。」とも。

◎映画に対する考え方

監督はとにかくすごい記憶力、動体視力の持ち主で、全部覚えている。『ジャズ大名』のときは、音楽の楽譜にカットわりを書き込んでいたそうで、天才肌。
クランクインの時には、全カットがわれていて、全体の分数まで計算できていた。しかし、今まで2つの作品で間違いをしたから、編集をやり直したいと言っていた。『EAST MEETS WEST』(1995公開版)は、病気中の編集で、自分のテンポでできなかった。『大誘拐』は、北林谷栄さんがセリフをなかなか覚えれなくて、間が長くなってしまった。北林さんにもっと早くとは言えなかったとか。

監督いわく、映画は、おもしろいことが一番大事。映画はおもしろくしなきゃいけない。(これはマキノ雅弘監督と同じですね)『EAST MEETS WEST』は、ディレクターズ・カット版の方が短い!!普通ありえない。たいていディレクターズ・カット版の方が公開版より長いのが通常で、監督のは、短くて、観てる人の想像力を一番かきたてられるもの、観て思わず身体が動いてしまうもの、これがいい映画。

監督は、映画が自由、ということを教えてくれた。何をやってもいいんだから、お前自身が選んで、お前が楽しめ、壮絶なまでの自由があり、こうすべき、こうあるべきというのはない。最低限、観た人に、撃つ人と撃たれた人がわかるという程度のABCさえわきまえていれば、あとは自由。
だから、いつも、誰かのいうことを聞こうとしていないか、自分の心に聞いてみる。これを自分では“自由のかんしゃく玉”と呼んでいる。

◎監督について

監督ご本人は、とにかく照れ屋で、まじめなチャーミングな硬派。でも、相手にもまじめさを強要しない。偉そうなのが嫌いで、自分自身も偉そうなことを言いたくないタイプ。偉そうな人がいたら、「あの人、ちょっと偉そうだよね」と茶々を入れるような感じ。人は1対1だから、相手を馬鹿にしてはいけない。おもしろいと思えばすぐ友だちになれるはずと言っていた。

監督自身は、冗談を言っていても、戦争のことはどこか忘れていない気がしたそうです。トークの際上映された監督のドキュメンタリーにもあったように、故郷の街の仲間が皆戦死してしまったことが大きいのではないかと。

◎さいごに

監督の作品は、結末がたとえ悲しくても、エネルギッシュで、庶民のエネルギーにあふれていて「俺は生きていた」と思えるもの。
利重さんにとって、映画だけでなく人生においても師であり、全てについて感謝したい存在。チャールストンは自分の原点が全部つまっている。楽しんで観てもらえたらうれしい。映画を観るのも一つの「賭け」ですからね。


長くなってしまいましたが、喜八監督の映画に対する姿勢や人となりがよく伝わった、すてきなトークでした。私も、現在、せっせとヌーヴォに通っているのですが、(残念ながら全作品制覇は無理ですが)監督の作品を観れば観るほど、どの作品も魅力的で、その虜になるのがよくわかる気がします。
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