日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ジョン・レノン・ミュージアム閉館に思う文化貢献における「企業責任」

2010-10-01 | 経営
昨日は書きたいネタがたくさんありましたので、9月30日ネタを。

さいたま新都心にある「ジョン・レノン・ミュージアム」が昨日を持って10年の歴史に幕をおろし閉館しました。閉館そのものに大きな問題があるとは申しませんが、問題があったとすれば開館時に文化貢献、社会貢献の立場から手を挙げ埼玉県と共同で運営スポンサーを買って出た大成建設の対応でしょう。大成建設は昨年、景気低迷による業績悪化を理由にスポンサー降板を埼玉県に申し入れ、県側の必死の引き止め交渉にも耳を貸さずに一方的に撤退を決め、後任スポンサーが見当たらないことから今回の閉館に結論づけざるを得なかったという事情がありました。

以前、青山ユニマット美術館閉館の際にも申し上げましたが、芸術・文化貢献といった企業のメセナ的活動はポーズや売名目的等の生半可な決意で取り組むべきではないのです。本来は例えば創業者からの寄託財産等によって業績とは無関係な運営が可能であるような状況下でこそ引き受けるべき事業であり、基本的には1世紀単位で芸術・文化を守り世に知らしめる役割があると思うのです。芸術・文化を大切にする欧州でもし同じような対応をとったなら、企業は倒産に追い込まれかねないほどの非難を受けるのではないでしょうか。しかも今回の件は、地方公共団体とのコラボレーションによる、さいたま新都心の都市開発にからむ街づくりも同館運営の目的はあった訳で、大手ゼネコンとしての大成建設の無責任な対応はそう言った観点からも厳しく非難されてしかるべきであると思います。

確かにここ2~3年の「ジョン・レノン・ミュージアム」は、来館者数が激減し入場料収入が減って運営費用の追加持ち出しが増え、本体の業績悪化とあいまってお荷物的メセナ事業になっていたのは想像にかたくないところです。しかしそれとて、運営事業者の集客活動に対する怠慢の結果であり、地方公共団体とのコラボレーションにあぐらをかいた好ましからざる事業姿勢の現れに他ならないのです(収益意識の薄い地方公共団体に前向き運営を期待するのは土台無理な話であり、もし集客努力を埼玉県に任せきりにしていたとするならナンセンス極まりない事です)。済んだことはやむを得ないとはしても、最低限のマナーとして代替スポンサーを見つけるか海外も含めた他の都市への移転を決めてから降りるとか、その程度の芸術・文化支援企業にふさわしい対応があったのではないかと思うのです。

閉館に際して亡ジョン・レノン夫人ヨーコ・オノさんがメッセージを寄せていました。
「ジョンが亡くなった時から、ジョンの魂は世界中を旅し続けるものであると思っていました。彼の魂が宿るミュージアムもまた世界中を旅する存在であるのです。10年という長きにわたり今の地にミュージアムが開館できたことに心より感謝しています」(趣旨抜粋)
こんなにも優しいヨーコさんのメッセージを聞いて、大成建設の経営陣は自分たちのあまりに身勝手、無責任な態度に心が痛まないのでしょうか。私はヨーコさんのメッセージに、思わず熱いものが込み上げてしまいました。またいつか世界のどこかで、ミュージアムが再開される日が来ることを心から望んでおります。

ごめんね、ジョン。日本の企業経営者はまだまだ未熟者なのです。

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