日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ83 ~ 「理念」と「ビジョン」

2010-04-07 | 経営
不景気下の最近の傾向として、組織の結束や進むべきベクトル合わせを経営課題として取り組む中小企業が増えています。これは、流れに任せた商売でも十分に商売になっていた好況下から一転、本気で仕事を取りに行くことをしないと明日どうなるか分からない現在の状況下では当然のことと言えば当然なのです。今まで本来の意味で「営業」をしていなかった企業が、「営業の強化」を重要課題にあげ「営業指南ネタ」がビジネス書や雑誌でもてはやされるのも、そういった時代の流れであると言えるでしょう。

さて、組織の結束や進むべきベクトル合わせを考えるとき真っ先に思い浮かぶのが、「経営理念」の再徹底です。今まで何気なく事務所の額縁に飾られているだけだった「経営理念(会社によっては社是、社訓)」を取り上げ、「この厳しい時代、創業の精神に立ち返って気持ちを引き締めて仕事に精進せよ」と大号令をかける経営者も少なくありません。これが果たして効果絶大かと言えば、なかなかそうはういかないのが実情です。なぜなら「経営理念」の類は、あくまで理念であり、企業活動の“よりどころ”や“支柱”ではあるものの大抵は抽象的で、何をやるか何をめざすのかが分かりにくく、再徹底を大号令されても現実の仕事にはなかなか反映しにくいからです。

そんな流れの中で我々がお手伝いするのは「経営ビジョン」の明確化作業です。「経営ビジョン」とは何か?「経営理念」が先も述べたように、「企業活動のよりどころ」や「企業経営を支える精神的支柱」であるのに対して、「経営ビジョン」はより具体的な組織目標としての「めざす姿」や「到達したい将来像」とその道筋なのです。すなわち、中長期的な到達点をより具体的な形で表わし、組織内の皆が同じマイルストーンに向かって歩んでいけるようにする訳です。具体的には「○○の分野で、××のサービスを通じて、△△№1をめざす」といった形にまとめられるのが良いとされています。すなわち、これぐらい具体性が見えれば、抽象的に「こういう気持ちでやるのだ」というだけの「理念」とは一線を画して、社員一人ひとりが「自分が何に向かって今何をすべきか」がより明確に分かるようになるのです。

この何気に書いたように見える「○○の分野で、××のサービスを通じて、△△№1をめざす」ですが、実はここには「ビジョン」にとって大切なことがすべて盛り込まれています。まず、「○○の分野で」。これは自社がどの分野に当面の重きを置いているかを宣言しています。一般的に「事業ドメイン」と言いますが、企業と言うのはやはり「何が本業であるか」を明確にすることは本当に大切であり、ややもすると道に迷いがちな不況下であればある程、社員一人ひとりに「迷った時はここに立ち返れ」ともう言うべき「本業宣言」をしてあげることが重要なのです。

次に「××のサービス」。この「××」は実は「経営ビジョン」づくりで最も大切な部分なのですが、ここには言い換えると「組織の価値観」というものをにじませるのです。「組織の価値観」とは何か?組織に属する全ての人間が何に価値を置いて仕事をするのか、毎日の企業活動の中で大切にしなくてはいけないことは何か、を宣言するものです。「組織の価値観」の例としては、トヨタの「改善」、セブン&アイの「仮説と検証」などがその代表格です。上の例でいえば、「××」には「顧客目線」とか「品質第一」とかが「組織の価値観」として入るケースが考えられます。いずれにしても、「組織の価値観」があってはじめて「ビジョン」は活きると言っても過言ではないと思います。

そして、「△△№1をめざす(△△は例として特定のマーケットや地域)」。この部分はまさに「めざす姿」なのですが、これを“お題目”で終わらせないためには、しっかりと「△△№1」を定義して組織の誰もが「△△№1」として納得できる指標を具体化し、目標計数として落とし込む必要がある訳です。数字で具体的到達点が見えない「めざす姿」は、結局“お題目”になってしまいますから。
(「△△」には、ほかにも「シェア○%」とか「利益率○%」とかで表現することも可能です)

ここまでの流れを言葉で言うのは実に簡単ですが、実際に“お題目”に終わらない「経営ビジョン」を作り上げるにはかなり労力のいる作業が必要です。要するに、具体的な「経営ビジョン」どれだけ具体的な「裏付け」を持たせられるかが、「経営ビジョン」を“お題目”で終わらせない大きなポイントになる訳ですから…。その辺のお話はまた次回。

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