日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニー、パナソニック、JTに見る、正しいリストラ、悪いリストラとは

2014-02-06 | 経営
大手企業の3月決算に向けて軒並み好決算報道が続く新聞企業面ですが、ソニーのニュースが芳しくありません。最新の報道では、VAIOで一世を風靡したPC事業を売りに出すとか。私には、3月決算を前に事業売却コストを隠れ蓑にした再度の赤字転落の言い訳づくりをしているかのようにさえ思えます。

ソニーのPC部門売却は一般に言うところのリストラです。リストラとはリストラクチャリングの略であり、日本語訳は「再構築」がそれで「切り捨て」「削減」がその意味ではありません。どうもその点を理解されない企業経営が多いようで、再三再四申し上げているように、「削減」「コストカット」は前向きな戦略とのセットで行われてはじめてリストラと言えるのであり、それ単独での取り組みは単なるその場しのぎの“悪いリストラ”に過ぎないのです。

ソニーは平井CEO着任後の2012年度からドン底脱出を目論んだ世界規模の大掛かりなリストラ策(切り捨て策、削減策?)に着手し、昨年末にも国内工場を対象とした追加のリストラ策が明らかにされたばかり。リストラ効果はリストラと円安に救われて5年ぶりの黒字決算とはなりましたが、次なる一手は全く見えずじまい。今のソニーには、「削減」を機とした実効性ある選択と集中や次代を描く具体性を伴った前向きな戦略が見えないのです。すなわち、今回のPC事業売却も「あーまたリストラという名の削減で時間稼ぎか」と思えてしまえるわけです。

昨年の今頃はまだ、同じように死の淵をさまよっていたライバルのAV家電メーカーパナソニック。彼らはアベノミクス着手による偶発的回復局面において、美容機器部門を売却するという「削減」をおこない、新たな選択と集中として自動車、住宅向け事業への注力策を打ち出しました。そしてこれが功を奏する形となって、今期は黒字転換を確実にしたのです。この部分を見る限りにおいて、パナソニックの「削減」はソニーのような単なるその場しのぎではなく、具体性ある前向きな戦略とのセットによる正しいリストラ策の進め方であったと言えそうです。

JT(日本たばこ産業)の小泉社長が、リストラに関して実に興味深い発言をしています。同社はこの3月決算で過去最高益を見込みながら、国内4工場の閉鎖と大規模な希望退職を募るという大リストラ策をぶちあげました。その本意について社長は、「国内市場に縮小リスクが見える以上、手を打つのが経営者の勤め。辞める社員へのフォロー面から考えても、会社が赤字になりキャッシュがないときにリストラをすることは絶対にやってはいけないこと」と語っているのです。私は素晴らしい経営者としてのバランス感覚とビジョン構成力、そしてあるべき雇用責任の表し方であると思います。私は、ソニーの平井CEOはじめリストラのなんたるかを正しく理解せず雇用責任を軽ろんじる経営者たちに対する、同じ経営者としての真っ向からの批判であると受け取りました。

毎度申し上げているように、景気回復局面に差し掛かる時期こそ景気低迷期などとは比較にならないほど、経営者の本当の手腕が問われる時期であるのです。正しいリストラと悪いリストラ、アベノミクスから1年。この3月の大企業決算は、各企業の経営者の手腕が明らかになる大変興味深い成績発表の場になるはずで、大いに注目したいと思います。

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