日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ロンドン五輪マネジメント的雑感①判定の再審査

2012-08-01 | 経営
連日のロンドン・オリンピック・フィーバーで、テレビメディアはオリンピック報道一色といった様相です。オリンピック・テレビ観戦から、いくつか気になる経営のヒントがうかんできていますので、順次ピックアップしてみます。まずは話題の「判定」に関する不手際と後味の悪さの件についてです。柔道や体操競技で話題の「判定問題」。審判員の判定が不明確で問題を起こしたり、不服申し立てを受けて判定が覆ったりと、どうも今大会は従来以上に「判定」に関する問題が多く生じていると感じています。

代表例は、柔道の日本選手対韓国選手の対戦での旗判定。「青三本(か韓国勝ち」が会場のブーイングを受けてのジュリーと呼ばれる審判委員の介入による再判定で「白三本(日本勝ち)」に180度寝返り、韓国選手サイドが明らかに納得できないという状況に。体操男子団体戦でも、日本選手のあん馬の判定を巡っての日本選手団の抗議により点数が改められ日本が4位から2位に繰り上がり、2位から3位に順位を下げた地元英国はこの扱いを不服として会場内に大ブーイングが起こると言う事件もあったようです。

これらの判定における問題はどこにあるのかです。判定が誤っていたのならそれを修正することは決して間違いではありませんが、その理由が明確に示されないことが最大の問題点であると思っています。

これは企業リーダーの行動においても全く同じこと。自分が指示したことが間違いであったと気がついたなら、それを正すことなく進んでしまうのは論外ですが、理由を明確に告げずに修正指示を出して方向転換をはかることは、最初の指示を信じて従っていた者に対して「指示がコロコロ変わる」というリーダーに対する不信感を抱かせることになるのです。これが第三者の進言によってなされた方向転換であるならなおさら、「あの人を贔屓しているからだ」とかのあらぬ邪推を生んで組織内に不協和音を発生させることにもなりかねません。

決定事項変更等の際に人を納得させるためには、その変更に「論理的」説明がつくか否かが大切であり、「論理的」であるか否かの最重要ポイントが納得性の高い理由が存在するか否かなのです。すなわち具体的には、変更検討に際して「この部分がこうだから、この理由によりこのように変更する(あるいは検討したが変更しない)」といった明確かつ論理的な説明がなければ、せっかくのチェック機能も用をなしているとは言えないのです。先の柔道の例で言うなら、過去の誤認判定を改善すべく再審査機能導入に至ったようですが、せっかく再審査が可能なスキームが導入したのに、そのスキームの機能発動に際して当事者の納得性が得られない説明不足のやり方に終始しており、導入の意味を全くなしていないのです。

企業でこれと似たケースでよくあるのは、経営者が組織内の“風通し”を良くしようと直接従業員の意見を聞く「目安箱」制度をスタートさせたものの、結局その意見の採否に関する理由を全く説明せずに運用してしまいかえって組織内の不平を増長することになるというケースです。採用のものについての全社員向けの採用理由の説明は当然のこと、不採用のものについても最低限提案者に対しては不採用の理由を明確に伝えるようにしなければ、この制度が組織活性化という目的ももって設けられたのであるなら、その目的を十分に果たすとことにはならないのです。

最後に、オリンピックの柔道の判定制度に見る一度決定したものに対する変更検討に関する理由説明の大切さは、マネジメントにおいては説明すべき経営者が上の立場にあるだけにより一層気づきにくいということも加えて意識しておきたい部分であります。