日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

管直人前首相が教える(?)「リーダーの作法」

2012-03-01 | 経営
福島第1原発事故を独自に調査している民間の事故調査委員会が報告書をまとめ公表されたそうですが、その中で事故発生当時の管直人首相はじめ政府の対応などがいろいろと物議をかもしているようです。新聞によってこの報告書の内容に関しての焦点の当て所が異なっているようですが、私の立場では報道されている報告書にある管首相の言動の部分を中心に拾い集めて、有事におけるリーダの作法として学ぶべき点を指摘しておくことにします。

<事象1>
事故後の昨年3月12日午前6時すぎヘリコプターでの原発視察で、首相は同乗した班目春樹原子力安全委員長に「俺の質問にだけ答えろ」と命じて他の説明を拒否した。班目委員長は「私としてはもっと色々伝えたかった」「菅首相の前で大きな声で元気よく言える人は、相当の心臓の持ち主」と述べた。

この部分において気になるのは、「上から目線に基づくリーダーの恫喝行動」です。班目委員長も言っているように、リーダーが恫喝的に「俺の質問に答えていればいい」というのは情報を細らせるのみであり、善後策を検討する上で有効な情報をスタッフが持っていたとしても、それを眠らせてしまうことになるのです。トラブル発生時には、その当事者が一番濃い情報を持っているのであり、リーダーが自己の思い込みポイントに基づいて質問攻めにしても、それで必ずしも対処に向けた有効な情報が入手できるとは限りません。まずは、自分が欲しい情報だけではなく当事者が持っている情報を洗いざらい聞き出すことが、問題の解決に向けては必要なことであると言えます。またリーダーが恫喝をすれば、仕える者は言いたいことが言えなくなるのは当たり前。有事にトップダウンで物事をすすめるやり方は間違ってはいませんが、有事にリーダーが感情的になるのは愚であり恫喝するなどは言語道断です。

<事象2>
福島第一原発に代替バッテリーが必要と判明した際、菅首相は自分の携帯電話で「必要なバッテリーの大きさは? 縦横何メートル? 重さは? ヘリコプターで運べるのか?」などと担当者に直接質問して熱心にメモをとった。同席者の一人は「首相がそんな細かいことを聞くというのは、国としてどうなのかとぞっとした」と述べた。

これはもう、最後の同席者のおっしゃる通り。リーダがその立場においてやるべきことと、人に任せるべきことの区別がつかない状況は、ことの運営に大きな支障をきたすことになります。森を見るべき人が木ばかりを見て何の意味があるのか、です。これは平時においても言えることで、「心配であいつらには任せられん」「俺がやった方が絶対にうまくいく」等の考えからつまらない事務仕事まで自分でやらないと気が済まないという例は、中小企業経営者は非常に多く見られます。要は、人を信じない、部下を育てようとしないリーダーであり、これでは権限移譲は進まず組織は成長できません。経営者やリーダーは、自分のやっている仕事やろうとしている仕事が本当に自分がやるべきことなのか、部下にやらせることはできないのか、必ず自問自答するべきなのです。リーダーが部下よりもうまくできることは当たり前で、そこを目をつぶってポイント指導しながらやらせることで人は育ち、組織は成長できるのです。リーダーにはリーダーのやるべきことがたくさんあるはずです。有事にはなおさら、リーダーがその役割を見誤ることは命取りになるでしょう。

<事象3>
事故発生直後、東電の清水正孝社長から現場の作業員600人を福島第一原発から第二原発に撤退させたいと政府に再三申し入れがあったことが明らかにされた。これに対し、菅首相が3月15日未明に東電本店に乗り込み、「命を賭けろ。撤退はあり得ない。そんなことをすれば東電は間違いなくつぶれる」と演説した。

この部分は本委員会報告においても唯一管首相の功績として、「作業員が残留し注水などを継続したことで事故は収拾に向かった。それが首相の最大の功績だったかもしれない」と評価をされている部分です。危機に直面した際にリスク・テイクする場合の目先のリスクの大きさと、リスク・テイクしない場合の将来を含め想定されるリスクの大きさを冷静に判断し、後者の懸念が勝ると判断できるのであれば、例え部下が尻込みをしようとも自身が先頭に立つ等して、当初の方針を貫く行動が必要ということです。何でもかんでも当初方針ありきで目先のリスク・テイク行動がいいわけではなく、ポイントはリスクの比較検討が冷静にできるか否かなのです。少なくともリーダー自身の保身や見栄やプライド優先で方針の進退を決めることは、一番やってはいけないことです。管首相がどのような判断で、東電の撤退を断固許さなかったのかは不明ですが、結果は正解であったわけです。

<おまけ>
民間の事故調査委員会がまとめた報告書について、菅前首相は28日夜厳しい指摘を受けた点には触れず、「わたしが東電撤退を拒否したことを公平に評価していただき、大変ありがたい」とのコメントを出した。

批判と評価の両面が向けられていることを察知したのであれば、リーダーたるものその双方に対して、自身の考えをスタッフに対して明確に表明すべきであります。特に批判が明らかにその声がリーダーに届いている状況でありながら、自己の考えを表明することなくそれを黙殺することは徒(いたずら)にリーダーの求心力を落とすことに他ならないと理解すべきであるでしょう。もっとも上記の事例については、管直人氏はすでに国民のリーダーではないという理解の下、これでいいかと済ませてもいいのかとは思いますが、過去にリーダーであったという観点で言うなら一言ぐらい自身への批判に対するコメントは欲しいところではあります。