日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ86~“反面教師”鳩山首相に学ぶリーダーシップのリスク管理

2010-05-24 | 経営
普天間問題で揺れた週末。鳩山首相への批判が集中しています。

そもそも普天間問題は(早くからブログでも言い続けてきましたが)、前政権時代に時間をかけて日米合意しかつ妥協点としての地元合意も得てすすんでいたものを、新たなリーダーがその経緯を十分に理解もせず思いつきあるいは理想論からそれを根底からくつがえすような旗を振り、結局は当初の結論づけの経緯を理解するに至って前言撤回をするという、リーダーとしてあってはならない愚行を犯してしまったのでした。~過去の経緯をよく調べもしないで、個人的な勝手な思い込み判断で既定方針を否定的に覆すような言動を軽々しくしてしまった~鳩山首相の今回の行動を一言で言い表すなら、こんな感じかと思います。

リーダーシップを振るう上で大切なことでありながら意外に見落としやすいこととして、上に立つ者自身のその言動の影響力の強さを理解する責務ということがあるのです。実権者が既定路線からの否定的方向転換を口にすることは、「確実にそう変わる」と下々の者に確信させその方向に気持ちを動かすことであり、万が一その方向転換の判断が過ちであると後から気づいて後戻りや再修正に陥った場合には、下からは取り返しのつかないほど信頼感を喪失することになるのです。いわゆる「無能な上に振り回された」「上に立つ者としての安易すぎる判断」といった「評価」は、このようなケースでは決定的となり、求心力は急激に下降線をたどるのです。営利組織での出来事ならこの手の信頼感の喪失時には、早期の首のすげ替えと新たなリーダーの下での方針の全面的立て直しが必要になります。

企業のトップや部門を任された管理者が、前任からの交代後に「自分のカラーを出そう」「改革者的なイメージで部下の支持を得よう」とするあまり、前任者時代に決められた既定路線を否定的なスタンスから変更に動くケースがあるのですが、この行動は要注意なのです。我々外部のコンサルティングが制度改革等を依頼されるケースも全く同様なのですが、「なぜ今あるその制度、そのやり方に決まったのか」という過去の判断過程を入念に調べ、検証をしてからでないと新制度への切り替えに動き出すのはリスクが大きすぎるのです。「なぜ今あるその制度、そのやり方に決まったのか」を事前に調べることは同時に、過去に済んでいる議論の繰り返しなどの無駄を省くことにもつながるのです。

新制度策定議論の場において、ベテラン役員や古参会議メンバーから「その議論は前にも一度したことがあるんじゃないか」といった意見が出されるケースをご経験ではないでしょうか。このような場合は明らかに、改正議案提案者の過去の決定経緯の検証不足が発生しているのです。このような話が出た時には即刻議論は中止して、提案者は既定事項の過去の決定経緯を洗い直して共有し本当に再度方向転換をするべきなのかを組織に問い直す必要があるのです。もちろんそのための大前提として、重要な制度等の決定過程は後からでも分かるようにしっかりと記録をしておくことが検証を可能にするということは言うまでもありません。

リーダーは今までにない新しい事を発案し組織をその方向へ動かす際には、仮に方向修正や過ち判明による中止等に至ろうとも、「見通しが甘い」という評価になることはあるにしても決定的な信頼感の喪失にまではつながりにくいモノです(もちろんたびたび同じようなミスがあることは論外です)。しかし、前任者時代の既定方針を否定の上で(「改善」として新たな提案を付加するのは別として)方向転換を示唆することは、過去の方針決定経緯等を入念に検証するなど細心の注意を払った上でないと、信用リスクを脅かしかねない行動であると十分理解した上で決断する必要があるのです。担当者レベルなら許される過去経緯の検証の甘さもリーダーには許されないと、自身の言動の影響力の強さを十分に自覚し慎重さをもって動くことも、経営者、管理者のリーダーとしての重要な責務であるのです。