日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ45 ~4つの「シカク」→「四角」「視覚」「資格」「死角」④

2008-11-20 | 経営
経営のキーワードとなる4つの「シカク」、最後は「死角」です。「死角」とは見えないところのこと。ですから今回は当然「死角」が大事というのではなく、経営者は常に「死角」の存在を意識し注意せよというお話です。

まず基本のお話。プロセスが“見える化”されていないという意味での「死角」、相手の考えが“見える化”されていないあるいは自分の考えが相手に対して十分に“見える化”されていない「死角」、これらは私が常に力説している経営に不可欠な「モノの見える化」と「ヒトの見える化」をしっかりすすめよ、ということにつながります。この辺の詳細は別掲(→http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/d/20080523)を参照願います。

それとは別に今回取り上げたい「死角」は、経営者自身が陥りやすく意外に気がつきにくい自身に対する「死角」の話です。

経営者は「孤独」であるとよく言われます。この「経営者の孤独」にこそ、何より恐るべき「死角」が潜んでいるのです。誰にも悩みを本心で打ち明けることがができないとか、ひとりで悩まざるを得ないとかがよく言われる「経営者の孤独」の理由ですが、これは恐るるに足りない「孤独」です。むしろ周囲の人間誰もが少なからず気を遣って話をし接するので、なかなか本音で指摘をしたり忠告をしたりという姿勢で接してもらえないという「孤独」にこそ経営者の恐るべき「死角」は潜んでいます。

例えば皆が「社長の判断は少し誤ってるね」「あの考えは思い込み。ちょっと違うような気がする」とか、仮に周囲が確実な否定までできない場合や、やや違和感を感じる程度の場合、社長が「こうに違いない!」と言ったことには反論をしにくいものです。そのテーマが大きく経営を左右するようなことであるなら、「社長それは違います」と進言する人間が出るケースもありますが、その時点ではそこまで経営上重要性を感じさせなければ、判断的にはどこか違うように思えても、社長に憎まれたくない、印象悪くしたくない、という考えからそのまま見過ごすケースが多々あるのです。

なぜこの「死角」が恐るべき「死角」であるのか、この「死角」に陥りやすい問題が実は管理者の人事問題、すなわち管理者の処遇に関するケースが多いからなのです。社長の部下に対する評価は、実は他のどの管理者よりも主観的で自分勝手なものなのです。社長は、組織上は各管理者をさらに管理する立場にありますが、管理者が部下を管理するように、その日々の行動を見て逐一管理しているかというと、ほとんどの場合そうではないでしょう。社長は、“社長業”が忙しく、実は管理者の管理(=実態把握)はほとんどできていないのが一般的なのではないでしょうか。

では社長は何を基準に管理者を評価しているかですが、たいていは彼が管理する部門業績の上下、彼に対する社内の評判や噂、自分の先入観的イメージ等々、かなり正確さを欠く情報で評価をしているのです。一番危ないケースは、ひとつの失敗事例等の出来事から「あいつはとんでもない奴だ」「あいつはいつもそうだ」と断じたり、自分が信頼する部下の進言を鵜呑みにして「奴が言うならダメに違いない」「オレも薄々感じていた」と誘導され降格させたり、ひどい場合にはクビを切ったり…。

人の処遇の問題は、人事そのものが経営危機を感じさせるものではないだけに、たとえ間違った判断に思えても、「その人事は違いますよ」という進言は出にくいものです。しかもマイナス処遇ともなれば、それを庇うことで「お前もいらない!」と言われかねませんから、口もつぐみがちになります。自分以外の人事というのものは所詮は「ひとごと」であって、「ひとごと」に余計な口出しをして、トップから憎まれるような真似は誰だってしたくないのです。すなわち、経営者が下す幹部のマイナス人事は、経営者の判断の「死角」がもっとも生まれやすい部分であるのです。

社長が決断する人の処遇、特にマイナスの処遇には、とにかく慎重に慎重を重ねておこなわなくてはいけません。「自分の思い込みや先入観で判断していないか」「自分の人を見る目を過信していないか」「気持ちのどこかで人物の好き嫌いで判断していないか」「誰か信頼している他のスタッフの意見に印象付けされていないか」等々、何度も何度も自問自答しつつ検討し複数のスタッフに意見を求めることが必要です。

トップが幹部社員のマイナス処遇を誤まることは、その場ですぐに経営を揺り動かすものにはなりにくいのですが、それによってその幹部が去ることにもなりそれがボディ・ブローのように徐々に効いてきて、経営を危うくしていく姿をいくつも見てきました。一度失った人材は決して帰ってきません。先日(11月13日当ブログ)のコンサルタント藤本氏の著作のタイトル「部下は取り替えても変わらない」は幹部人事にも言い得ており、経営者の独断で幹部にマイナス処遇をすることへの警鐘でもあります。

なぜなら、幹部社員に不満を感じても、クビをすげかえて良くなるかと言えばそれは疑問だからです。会社には人間と同じく「器」というものがあって、その「器」を超えて上級人材を求めても、結局ははまらず逃げていくでしょう。まずすべきは会社の「器」を大きくすること(単に規模のことではありません)、そしてそれにつれて管理者の「器」を大きくしていくことが、時間はかかるものの実は一番近道だったりするのです。

経営者が幹部社員への不満を口にし降格や解雇を前提としたマイナス処遇を下す前に、そこに潜む経営者自身の「死角」の有無を十分に検証することをおすすめします。