日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

〈70年代の100枚〉№50~「ロックオペラ」という新ジャンルの完成形

2008-11-16 | 洋楽
伝説のロックバンドThe Whoが来日をしております。大阪→横浜と来て今日は埼玉。そして17、19日がいよいよ武道館です。と言う訳で、“祝来日記念”の意も込めてこのタイミングで本企画2作目の登場です。

№50      「四重人格/ザ・フー」

今でこそ、日本でもその実力と功績の歴史的価値が認められてきたザ・フーですが、70年代当時はかなりお寒い状況で本国イギリスやアメリカでの絶大な人気と評価とは裏腹に、我が国ではほとんどマニアックな存在でファンは大変肩身の狭い思いをしておりました。それもこれも、ポリドールと言う洋楽分野ではマイナーなレコード会社の配給であったがゆえのPR不足による宿命だったように思います。

アルバム「四重人格」は73年リリースの彼ら7番目の作品。彼らのアルバムの構想は、常にリーダーで大半の曲を書いているギタリストのピート・タウンゼントによって組み立てられています。彼は67年の「セル・アウト」あたりから、ミニ・オペラ形式での独自の創作をはじめ、69年の2枚組アルバム「トミー」で「ロック・オペラ」という新しいジャンルを作り出したのでした。そして、70年代に入ると、さらにスケールアップした音・映像・ライブをミックスした一大プロジェクト「ライフ・ハウス」構想をぶちあげたものの、スケールの大きさゆえ収集がつかなくなって頓挫。その残骸が、71年に名盤「フーズ・ネクスト」としてリリースされたのでした。

翌72年、新たな構想は立ちあげられました。彼らのバンド・スピリットにも通ずるモッズ族の物語を、フーの4人のメンバーの性格を併せ持つ“多重人格”の青年を主人公にしたロックオペラとして作り上げた大作が、この「四重人格」なのです。ピートがデビューから一貫して描き続けているもの、それは不自由な状況からの脱却。デビュー曲「アイ・キャント・エキスプレイン」では「説明できない」悩める姿を歌に託し、代表曲「マイ・ジェネレーション」では「ジ・ジ・ジ・ジ、ジェーネレーション」とどもりながら自己主張に苦悩する若者を描きました。続く「トミー」ではショック性三重苦(目、口、耳が不自由)の主人公トミーの難病からの回帰を題材にし、この「四重人格」ではパラノイアに苦しむ若者の苦悩と脱却への苦業がテーマになっているのです。

ストーリー的には「トミー」の方が明快で分かりやすく一般的に受け入れられやすいという側面もありそうですが、音楽的には明らかに「四重人格」が「トミー」を上回る出来映えとなっています。A2「リアル・ミー」A4「少年とゴッドファーザー」は、彼らの全作品の中でも5指に入るいかにものフーらしいカッコいいロックナンバーです。そして、作品後半には恐らく今回の日本公演でも演奏されるであろう彼らの代表曲C1「5:15」D3「愛の支配」。特に「愛の支配」は、オペラのラストを飾る素晴らしいバラードです。

ストーリー的には、絶望した主人公のジミーがバイクで断崖から海に飛び込んで自殺を図り、そのまま岩場にたどり着いて(生きてなのか死んでなのかは不明)「すべては愛が支配する」というこの曲のロジャーの絶叫ボーカルで終わると言う展開。実に難解なエンディングであります。この作品は「さらば青春の光」として映画化もされています。こちらもこの素晴らしいアルバムとストーリーを理解するには必見です。

ちなみに、全米アルバムチャートのアクションは最高位第2位。彼らの作品としては最も上位にランクされたアルバムでもあります。71年の「フーズ・ネクスト」が、“ゴッドファーザー・オブ・パンク”ザ・フーの70年代の代表作であるとするなら、「四重人格」はロックオペラという、プログレッシブ・ロックにも影響を与えた新たなジャンルを確立。その意味で、70年代が後世に残した名盤であると言っていいでしょう。

さあ日本公演、04年は真夏の炎天下の横浜オープンエアでのステージでした。もちろん「本物」を見た感動だけで十分満足でしたが、今回は待望のロックの殿堂武道館でのライブ。見逃しては一生の後悔モノなので、なんとか見に行くつもりでおります。