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静聴雨読

歴史文化を読み解く

澁澤龍彦と渋沢竜彦

2007-04-06 06:53:32 | ことばの探求
国語・国字問題はいつの世でも世間の注目を浴びるテーマだ。古くは、明治時代の文部大臣・森有礼(もりありのり)が、標準語をフランス語か英語(あまりびっくりしたので、どちらだったか記憶があいまいだが)にしようと提議したことがある。また、第二次世界大戦に敗北した昭和20年代に、やはり時の文部大臣・山本有三(「路傍の石」の作者)が国字をローマ字に変えようと提議したことがあり、エスペランティストなどが賛同した経緯がある。

いずれも実現しなかったが、国が動くときには、国語・国字問題もにぎやかになるようだ。なぜなら、ことばは、国のガバナンス(統治)、歴史文化の推移、中央と地方との力関係、異国との交流、などの状況を忠実に写す鏡だからだ。

戦後(すなわち、第二次世界大戦敗北後)の昭和20年代に、新かなづかいの採用、当用漢字・教育漢字などの漢字制限施策などが実施されて、国語・国字改革が一挙に進んだ。外来語の大量流入や漢字の字体の簡略化もその一つだ。「廣澤」が「広沢」になり、覚えるにも書くにも便利になった。

近年のIT革命によって、国語・国字問題が改めてクローズアップされることになった。漢字が書けないのに漢字を表現することができるという事態が出現したのだ。そう、「かな漢字変換ソフト」のもたらした奇妙な現象である。
「廣澤」と書けなくてもかまわない。「ひろさわ」でかな漢字変換ソフトにかければ、「廣澤」でも「広沢」でも、お好みの漢字が選べるのだ。

だが、便利なだけではない事態が発生した。 

マルキ・ド・サドの小説の翻訳などで名の高いフランス文学者に澁澤龍彦がいる。何気なくこう書いたが、今日のテーマは彼の姓名の中にある。

「澁澤龍彦」は旧字体の「澁・澤・龍」を含んでいる。新字体の「渋・沢・竜」を使った表記ができるはずである。しかし、ほとんどの出版社の書籍で、彼の姓名は「澁澤龍彦」と表記してあり、旧字体が優勢だ。これは、本人の希望があって、かつ、文学作品の著者名なので、旧字体の姓名を採用しているのだろう。

だが、人によっては、あるいは、場所やメディアによっては、「渋沢竜彦」と表記している場合が大いにあり得る。これだけ、新字体が普及しているのだから。

ここで、近年のIT革命のもう一つの申し子が登場する。Yahoo! や Google などの「検索エンジン」がそれだ。キーワードを指定して、欲する情報を獲得するツールとして便利なものだ。

この「検索エンジン」を使って、例えば、澁澤龍彦の著作を拾ってみる。
「澁澤龍彦」で検索すれば「渋沢竜彦」はひっかからない。逆に、「渋沢竜彦」で検索すれば「澁澤龍彦」はひっかからない。「澁」と「渋」、「澤」と「沢」、「龍」と「竜」、にはそれぞれ別のコードが割り当てられているので、互いにまったく別物とみなされるからだ。

澁澤龍彦の場合は旧字体の「澁澤龍彦」の認知度が高いので、まだ救われる。
「みやざわ賢治」の場合は、見事に「宮沢賢治」と「宮澤賢治」に二分されているのだ。

片方のキーワードだけでは欲する情報をすべて獲得することができない。「澁澤龍彦」=「渋沢竜彦」、「宮沢賢治」=「宮澤賢治」とみなして検索処理をしてくれる検索エンジンはないものか? あるいはあるのかもしれないが、私は知らない。(2007/4)
            


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
しびさわたつ彦も旧字です。 (天婦羅指南書)
2012-01-14 09:22:38
彦の上部は立ではなく、文らしい。
偐の人偏なしらしい。帰宅して澁澤翁の単行本で確認してみます。
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誤字訂正 (天婦羅指南書))
2012-01-14 09:25:40
しびさわたつ彦 ----> しぶさわたつ彦
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ありがとうございました (ozekia)
2012-01-21 12:29:07
天婦羅指南書さん、ozekia です。
コメントありがとうございました。

ご指摘の通り、彦の上部は立ではなく、文で、
その「彦」の字も旧字です。
気がついていたのですが、議論を単純にするために、「彦」の字には触れませんでした。旧字の「彦」の字が私のカナ漢字変換ソフトでは表現できないことももう一つの理由でした。
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