静聴雨読

歴史文化を読み解く

私のバックボーン(現代日本人編)

2010-09-23 07:22:15 | 歴史文化論の試み
歴史文化論を始めるにあたって、私の「関心のありか」を説明してきましたが、これから、私の歴史文化論を支えるバックボーンを明かしたいと思います。

話を広げると、古今東西すべてにわたって、影響を受けた人、ためになった人、気になる人、を挙げていかねばなりませんので、際限がありません。そこで、ここでは、現代日本人に絞って、影響を受けた人、ためになった人、気になる人を挙げたいと思います。すでに亡くなった人も含みますが、戦後に活躍した・または現在も活躍している、ほぼ同世代の人たちです。

(1) 思想分野

まずは加藤周一。西洋・東洋・日本の文化に普く通じている評論家です。「近代日本の文明史的位置」「芸術の精神史的考察」など、私の問題関心にフルに重なる仕事を残しています。ただし、私はまだ加藤周一を十分読みこなしていません。これから、「加藤周一著作集 全24巻」、平凡社、を精読したいと思います。

鶴見俊輔。私の最も尊敬する哲学者です。アメリカの分析哲学から研究生活を始めたようですが、これはよく分かりません。本人も分からないようですから気にすることはないでしょう。
目線の低さが誰も真似できないところです。庶民・常民・おばさん・がきデカ、誰とでも意見を交わすことができ、誰からもそのいいところを吸収できるという特技は余人を許しません。戦後、雑誌「思想の科学」を興し、「限界芸術」(専門家でないものによる、芸術か芸術でないかはっきりしないような芸術)論を唱え、漫画を読んで「ムフフの哲学」を唱えたのも、目線の低さの然らしめるところでした。「鶴見俊輔集 全17巻」、筑摩書房、と、「鶴見俊輔座談 全10巻」、晶文社、は(アメリカの分析哲学を除いて)読破しました。

丸山真男。有名なエリート政治学者です。「幕末における視座の変革」「超国家主義の論理と心理」など、政治状況の分析に卓抜した才能を発揮しています。私は彼のレトリックの巧みさに惹かれます。「丸山真男集 全17巻」、岩波書店、は読破しました。「丸山真男座談 全10巻」、岩波書店、「丸山真男講義集 全7巻」、東京大学出版会、「丸山真男書簡集 全6巻」、みすず書房、が残っていますが、読み通す時間があるかどうか? (2006/8)

(2)芸術分野

吉田秀和。大学時代に音楽好きの友人がほれ込んでいました。その頃は、私は映画に夢中でしたし、その後は演劇に興味が移行していましたので、私が吉田秀和を読み始めたのはずっと後です。そして、初めて、音楽(作曲と演奏)を批評する方法を教えられました。クラシック音楽を素人にもわかるように解いてくれます。また、美術評論も分りやすく、私は重宝しています。「吉田秀和全集 全24巻」、白水社、を読みました。

美術の分野では、残念ながら、これという大物に出会いませんでした。オランダ・フランドル美術については土方定一、イコノロジーについては若桑みどり・辻佐保子など、個別のテーマについては学ぶべき人がいますが、美術全般について意見を傾けるべき人は見当たりません。美術評論家の多くが、講壇的・権威主義的色合いが強くて、ついていけません。むしろ、専門外の吉田秀和の
発想に共感します。「調和の幻想」「トゥ-ルーズ・ロートレック」「セザンヌ物語」など。

木下順二。「夕鶴」など民話を題材にした戯曲から、現代史に題材をとった重厚な戯曲まで、圧倒的な存在感があります。「山脈」「蛙昇天」「沖縄」「オットーと呼ばれる日本人」「白い夜の宴」「審判」などは、劇場で見ました。
オーソドックスな作劇法で、その後の唐十郎・野田秀樹・寺山修司などとは、自ずと別の立場に立っています。

佐藤忠男。鶴見俊輔と「思想の科学」つながりの映画評論家です。蓮見重彦などには評判がよくありませんが、私は佐藤忠男を支持しています。初期の「斬られ方の美学」から近作の「日本映画史」まで、評論の質・量とも圧倒的です。溝口健二・黒澤明・小津安二郎・木下恵介・今村昌平・大島渚。この6人のモノグラフをすべて物した映画評論家がほかにいるでしょうか?
教育評論にも活躍しています。  (2006/8)

(3)創作分野

埴谷雄高。最近「死霊」を読み終えました。良くも悪くもこの小説の中に、埴谷宇宙学のすべてが凝集されています。「虚体」「自同律の不快」「死滅する国家」などなど。最初に読んだのは、「兜と冥府」「鐘と蜉蝣」など奇妙なタイトルのついたエッセー集でしたが、そこで語られていたことが、そのまま小説「死霊」にも現われていることは現代の不思議の一つです。

大江健三郎。「個人的な体験」以降のファンで、ほぼ全点読んでいると思います。「洪水はわが魂に及び」「万延元年のフットボール」などがお気に入りですが、その後時々現われる私小説もどきの作品は支持しません。

井上ひさし。小説・エッセー、どれをとっても面白いこと請け合いです。劇作家としても一流で、多作であるにもかかわらず、遅筆で演劇関係者に迷惑をかけることがしばしばあるのは解せません。

井上光晴。胡散くささ一杯の小説家です。登場人物のネーミング(紙咲道夫少年など)の特異性、フォークナーばりの3場面同時進行の小説つくり、などに特徴があります。多作で本も多く出版された割には人気がありませんでした。いまでもありません。ある出版社から、娘の井上荒野と同時に本を出すことになり、井上荒野は初刷5000部だったのに対し、井上光晴は初刷2000部だったというエピソードを、井上荒野が「ひどい感じ 父・井上光晴」、講談社、で紹介しています。私の推測ではもっと少なく、1500部程度だったのではないかと思っています。

ほかに、木下順二の劇作がありますが、上で触れました。

以上、思想分野・芸術分野・創作分野で、影響を受けた人、ためになった人、気になる人を10人挙げました。私の思想形成のバックボーンとなっている人たちです。  (2006/9)



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