陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

699.梅津美治郎陸軍大将(39)決したようでもあり、決しないようでもあり、但書きだけ多い決済振りの性癖

2019年08月16日 | 梅津美治郎陸軍大将
 統帥の最高責任者である、参謀総長・梅津美治郎大将に対しては、大陸用兵問題で、その慎重不決断についての不満が、次長、第一部長、第二課長等から出ていた。

 当時の参謀本部次長は河辺虎四郎(かわべ・とらしろう)中将(富山・陸士二四・陸大三三恩賜・関東軍作戦主任・砲兵大佐・関東軍第二課長・近衛野砲連隊長・参謀本部戦争指導課長・航空兵大佐・参謀本部作戦課長・浜松飛行学校教官・少将・在独国大使館附武官・第七飛行団長・防衛総参謀長・中将・航空本部総務部長・第二飛行師団長・第二航空軍司令官・航空総監部次長・参謀次長・終戦・GHQ軍事情報部歴史課に特務機関「河辺機関」を結成・内閣調査室シンクタンク「世界政経調査会」・昭和三十五年六月死去・享年六十九歳)だった。

 当時の参謀本部第一部長(作戦)は、宮崎周一(みやざき・しゅういち)中将(長野・陸士二八・陸大三九・陸軍大学校教官・歩兵大佐・第一一軍作戦課長・歩兵第二六連隊長・陸軍大学校教官・少将・第一七軍参謀長・参謀本部第四部長・陸軍大学校幹事・第六方面軍参謀長・中将・参謀本部第一部長・終戦・第一復員省調査部長・昭和四十四年十月死去・享年七十四歳・功三級)だった。

 七月十三日、第一部長(作戦)・宮崎周一中将は、「戦争終末の転換を指導するための情勢判断」を述べている。

 それは、わが国が東及び南からの米英、西の重慶及び延安(中国共産党)、北のソ連による包囲圏内に圧迫せられんとしつつ状況の中で、如何に対策を講ずべきかを判断したものだったが、最後に次のように結んでいた。

 「軍は事態の正当深刻なる認識と無欲の境地に立ち、果断決行することのみ能くこの窮地を脱し己を全うし得る唯一の道である」。

 果断決行するということは多分に謀総長・梅津美治郎大将を意識して書かれたものと思われる。

 翌日の七月十四日、参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将は、参謀本部次長・河辺虎四郎中将に、この情勢判断を述べ、「かつこれを実行するためには、○○の更迭を要する」と説明した。参謀本部次長・河辺虎四郎中将も同意したと記されている。

 この○○が、参謀総長・梅津美治郎大将を指していることは明らかである。

 参謀本部次長・河辺虎四郎中将も、参謀総長・梅津美治郎大将の慎重さには慊(あきた)らぬものと見えて、七月十三日の日誌に次のように述べている。

 参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将が、参謀本部次長・河辺虎四郎中将の部屋に来て、「戦争指導、作戦指導ともに、ぐずぐずして動かず、作戦上の事務は、下僚が手間取るのではなく、決裁容易に下らず渋滞している」と強調した。

 これに対して、参謀本部次長・河辺虎四郎中将は、「予自身の直言的輔佐不十分なのを自覚しない訳ではないが、朗々淡々として下と談笑討議することもなく、決したようでもあり、決しないようでもあり、但書きだけ多い決済振りの性癖に対しては、進んで言うの勇気を殺がれるというのが実情であり、これはどうしようもない」。

 参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将の参謀総長・梅津美治郎大将に対する不満は、大陸用兵問題が特に影響していると思われる。

 だが、参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将が、この非常時期における第一部長の重職に登用されたことは、異色の人事と言われていた。

 参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将は、中央部勤務の経験が不足しており、第一線の作戦指導の経験は豊富であるが、戦争指導については全く乏しかった。

 作戦一本鎗の参謀本部第一部長(作戦)・宮崎周一中将と、全局から戦争指導を考えている参謀総長・梅津美治郎大将とでは、肌が合わないばかりか、考案の次元が異なっているので、同調できなかったと言われている。

 東久邇宮稔彦王(ひがしくにのみや・なるひこおう)・大将(久邇宮朝彦王の第九王子・陸士二〇・陸大二六・フランス陸軍大学卒・歩兵大佐・近衛歩兵第三連隊長・少将・歩兵第五旅団長・中将・第二師団長・第四師団長・航空本部長・第二軍司令官・大将・防衛総司令官・軍事参議官・内閣総理大臣兼陸軍大臣・終戦・予備役・貴族院皇族議員辞職・公職追放・皇籍離脱・日本文化振興会初代総裁・平成二年一月死去・享年一〇二歳・従二位・大勲位菊花大綬章・功一級)の昭和十九年十二月二十八日(木)の日記には次の様に記してある。

 午後一時半、参謀本部に行き、梅津参謀総長に会い、国土防衛上のことにつき協議したが、そのさい硫黄島防備について、私は次のごとく提議した。

 「敵がサイパン島に基地を持ち、B-29が連日連夜わが本土に来襲しているが、わが方が撃破したB-29は、途中海上に墜落し、その乗員は潜水艦によって救助されているようである」

 「しかし、もしわが本土とサイパン島との中間点にある硫黄島が、敵のものとなるならば、B-29は硫黄島に不時着もできるし、油の補給もでき、今日よりもっと大規模な編隊で来襲するにちがいない」

 「またその度も多くなるだろう。そこで、硫黄島の防備を海軍から陸軍に移し、敵の攻略を受ける前に、強固なる陣地をつくっておかなければならない」

 「これが敵にとられたならば、本土防衛は非常に困難になる」。

 梅津は、「明日返事をする」といった。