花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「刀の鍔(つば)文様」について

2012-03-01 | 文様について

presented by hanamura ginza


今日から3月になりますが、
相変わらず、真冬のような寒い日がつづき、
東京では雪が積もっています。

それでも、まもなくひな祭りということで、
各地では、「ひな人形展」が開催され、
旧家に伝わるひな人形を観ようと、
大勢の人々が足を運んでいます。

ひな人形は、女の子の健やかな成長を願ってつくられたもので、
平安時代の頃よりはじまり、
江戸時代に現代のような段飾りのものが登場しました。

一般的な段飾りのひな人形には
天皇と皇后をあらわした男雛に女雛、
宮中に仕える女官をあらわした三人官女、
能のお囃子を奏でる五人囃子などが並べられます。
ひな人形には平安貴族たちの装束が身に着けられ、
宮中の雅な文化を伝えるものとして、美術品にもなり、
昔から人々を魅了してきました。

このひな人形の飾り方は、
関東では男雛が向かって左、女雛が右、
関西では男雛が向かって右、女雛が左、
五人囃子は向かって右から、
太鼓・大鼓(おおつづみ)・小鼓(こつづみ)・笛、謡いというように並べるなど、さまざまな決まりごとがありますが、
その中のひとつに、男雛が腰に差す刀の刃を下向きにするというものがあります。

刀の刃の向きとは、
一見細かなことに思えますが、
実際に、平安時代に用いられた刀の刃は、
身につけたときに下を向くものでした。
刀の刃が上を向いた戦用のものは、
室町時代以降につくられるようになり、
武士の間に広まりました。
平安時代の貴族たちにとって、
刀は武士のように敵と戦うためではなく、
我が身を守るためのものだったのです。

このように刀もまた、着物同様に日本の文化や歴史をあらわすものなので、
ひな人形でも、こういった決まりが大切に守られているのでしょう。

ひな祭り直前ということで、
本来はひな人形の文様についてお話しするところなのですが、
今日は、この刀の部品である鍔(つば)についてお話してみたいと思います。

刀の鍔は、刀剣の柄と刀身との間に挟まれたもので、
柄を握る手を防護し、手を滑らすことのないよう
ストッパーのような役割もします。

日本でつくられた刀は、芸術的な美しさがあるといわれ、
世界中で高く評価をされていますが、
刀身のかたちのほかにも、
鍔に施された精緻な彫りや手の込んだ装飾には、
目を見張るものがあります。

刀に鍔が付けられるようになった起源は定かではありませんが、
すでに古墳時代の遺跡からは、鍔の付いた刀が発掘されています。
当時の鍔は、装飾のないシンプルなものだったようですが、
やがて時代とともに刀の形も変わり、
武士が権力を持った室町時代になると、
「打刀(うちがたな)」とよばれる刀が
多くつくられるようになりました。
この打刀が現代でもよく見られる一般的な刀の原型です。

このころから、刀は武器という用途のほかにも、
武士にとっては、信仰の対象にもなっていきました。

やがて、刀をつくる職人たちは、
より秀いでたものをつくろうとその技を競い合い、
刀づくりの流派も生まれ、
刀身には「刃文」とよばれる、流派や人物の印が焼きいれられるようになりました。

また、鍔のみをつくる専門の職人も誕生し、
鍔の装飾は手の込んだものになっていきました。

やがて、江戸時代になると、
刀は武器という目的ではなく、武士の象徴となり、
その実用性よりも、鍔や刀を覆う鞘(さや)などの装飾などに重きが置かれ、
より美術性の高い刀が求められるようになりました。

このようにつくられた鍔は、
のちに単体としても美術品となり、
現代ではコレクションをされている方も多いようです。

このような刀の鍔の美術性は、
着物や帯の意匠にも文様として取り入れられました。



上の写真は、大正時代につくられた和更紗をお仕立て替えした名古屋帯です。
刀の鍔の文様と笹や七宝などの文様がきりばめのように組み合わされています。
さまざまな鍔の形の面白さや美しさが巧みにあらわされ、
眺めているだけでも楽しめる意匠となっています。

ちなみに、落語には「雛鍔(ひなつば)」とよばれる演目があります。
お屋敷に住む若様が、庭で穴あき銭を拾い、
「丸くって、四角な穴が空いていて、文字が書いてあるな。
おそらく、これはおひな様の刀の鍔ではないか?」といって、
それがお金であることに気づかずに
穴あき銭をぽーんと投げ捨ててしまいます。
それをみた植木屋が高貴なお方は汚らわしい銭のことは知らないのだと感嘆し、
日ごろ「銭をくれ。」とねだるわが子の品のなさを嘆くというお話です。
もちろん、このお話しには続きがまだまだあるのですが、
オチをお話してしまうのも野暮というものですので、
興味がある方は、一度お聞きになってみてください。

さて、3月3日のひな祭りの日は、寒い所が多いようですが、
ひな祭りを過ぎると気温が上がるようです。
今はちょうど冬と春が鍔競り合いをしているところなのでしょう。

※上の写真の「きりばめに刀の鍔文様 和更紗 名古屋帯」は3月2日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。

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次週の更新予定でした3月8日は、仕入れのためお休みさせていただきます。
次回の更新は3月15日(木)予定です。


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