花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「稲文様」について

2011-08-03 | 文様について

presented by hanamura


梅雨が明けたと思えば、もう8月ですね。
本来ならば夏本番で、暑さがもっとも厳しい時期ですが、
今年は涼しく過ごしやすい日が多いですね。

とても暑かった昨年の夏を思い返したり、
節電対策のことを考えると涼しい夏は
ありがたくもありますね。
しかしその一方で、秋に収穫を迎える農作物の
収穫や出来はどうなのかも気になるところです。

とくに、稲作にとって夏は、
茎の中から穂が出る「出穂(しゅっすい)」とよばれる
とても重要な時季で、
この時季の気候によって
収穫量や質が大きく変わってしまいます。

お米を主食としている日本人にとって、
この時期になると、お米の出来や収穫は、
現在でも、関心事のひとつです。

着物や帯の意匠には稲を文様化したものもあり、
出穂の時期から稲が収穫される時期までの
季節をあらわす装いとなっています。

今日は、その稲文様についてお話ししましょう。

古来の日本では、
稲は大切な食料としてだけではなく、
富の象徴や宝として崇められ、
稲には、神が宿ると信じられていました。

「日本書紀」や「古事記」には、
「稲霊(いなだま)」や「倉稲魂(うかのみたま)」、
「豊受媛神(とようけびめのかみ)」、といった
田の神が登場し、それらの神様を祀っていた様子が記されています。

日本にある神社も、稲と深い結びつきがあります。

三重県の伊勢神宮では 1400 年ほど前から 11 月 23 日に
新嘗祭(にいなめさい)という祭祀が行われていますが、
この祭礼は、五穀豊穣に感謝し、
収穫した稲穂を天照大神に捧げるものです。

また、全国に分祀されている稲荷神社には稲荷神が祀られていますが、
稲荷神は、もともと穀物と農業の神さまとされていて、
京都府伏見の稲荷神社の「束稲〈たばね〉」をはじめ、
稲荷神社の神紋には稲文様があらわされています。

和歌山県をはじめとした熊野神社に奉仕する神官や氏子の家紋にも、
稲文様が使用されました。

このように稲の文様は、古来より家紋や神紋に多く用いられましたが、
染織品に用いられることは少なかったようです。

江戸時代には、稲文様があらわされた小袖や能装束も
つくられるようになりました

稲の文様には、束ねた稲をあらわした「稲束文」、
「稲の丸文」、稲の穂が波打つ様を図案化した「稲波文」などがあります。

水田と大地は女性、
種まきと水やりは男性を象徴していて、
稲文様は五穀豊穣の他にも、
夫婦円満や子孫繁栄の文様としても扱われています。

ちなみに、日本と同じようにお米を主食としている東南アジアでは、
お米は天界に住む男女の神の子どもとされているので、
地域に隔たりがあっても、神の恵としてのお米の大切さは
ほとんど変わりがないようです。



上の写真の洒落袋帯は、稲に実が入りはじめたころの稲穂の様を
麻地にろうけつ染めであらわしたものです。
このような稲穂を意匠化したものは、
実はたいへんめずらしく、貴重と言えます。
稲がたわわに実った情景を描写しているものは比較的多く見られますが、
いままさに実りはじめた稲穂をモチーフとしている部分には
作家の相当のこだわりが感じられます。

実が少なくこれから実ろうとする稲穂だからこそ
太陽に向かって真っすぐに伸びることができるのですね。
まだまだ伸びしろが多く、
実りのある未来に向かって育つ稲穂には
子どもたちの希望のある将来が重なり、
日本や東南アジアの習わしに
「そういうことなんだ!」と
思わずポンと膝を打ってしまいます。

※写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は8月17日(水)予定です。

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