ヌマンタの書斎

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アメリカの全貌を読む 長谷川慶太郎

2017-07-20 14:09:00 | 

バブルが弾けて、もっとも信用を失った経済評論家の一人が、長谷川慶太郎ではないかと思う。

それでも敢えて私は言いたい。70年代後半から、90年代初頭、特に80年代前半に書かれた彼の著作は、今読んでも学ぶべきことが多いと。

私がこの作品を読んだのは、30年以上前だが、今読んでも新鮮な発見がある。

アメリカには行政改革が必要ない。そういわれれば、確かにそうだ。大統領が替わるたび、アメリカの官庁は大きく変わる。日本のような官僚=安定した生活なんてありえない。

更に凄いのが、戦争が終わると、当たり前のように軍隊を大規模に削減する。朝鮮戦争やヴェトナム戦争当時、軍隊は300万人を抱えていたが、戦争が終わると、あっさりと30万人程度に削減してしまう。

凄まじい! 戦前の日本は、それが出来ずに大量の兵士を抱え込み、結果軍隊を維持するために大陸侵略を進めていたようなところがある。アメリカのように、あっさりと軍隊を削減できたのなら、太平洋戦争になだれ込むことはなかったかもしれない。

もっとも、このような大規模な役人(軍人もだが)削減が出来るのも、国家として歴史が浅いからこそだとも思う。だが、軍隊=雇用の確保という視点でアメリカを語る経済評論家は、そうそういないと思う。

更にもう一点、長谷川の慧眼だと感心できるのが、20世紀前半世界最高水準を誇ったアメリカの製造業が低迷、失墜した理由に、教育の荒廃を挙げていることだ。

戦後、個人主義が一般化すると、家族の幸せよりも個人の幸せを追求するようになったアメリカは、当然のように離婚が激増した。その結果、片親の下で、教育が軽視され、基礎学力が徐々に低下した。その結果、彼らを採用した工場などでは、低レベルな業務しか出来にない工員が増えてしまった。

その結果、アメリカの製造業は徐々に衰退していくことになる。

他人事ではない。日本でも同様な教育水準の低下と、製造業、建築業など第二次産業における低迷が目立ちつつある。教育レベルの低下と、その国の工業力の低下を指摘した論者は、私の知る限りでは長谷川慶太郎が最初ではないかと思う。

もちろん、外している分析もある。それでも、30年以上前に書かれた経済評論で、今読んでも学ぶ価値のあるものは、そうそうないと思う。久しぶりに読んだのだが、やはり大したものだと思います。

コメント (2)
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