ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

森の再生と狼

2008-05-13 12:21:46 | 社会・政治・一般
連休中、夜はのんびりCS放送を観ていた。いくつか興味深い番組があった。

アメリカのイエローストーン国立公園といえば、巨大な岩壁、火山湖と間欠泉、森と泉に彩られた美しい自然の宝庫だ。厳しい規制の下、アメリカで最も美しい景観を有する景勝地でもある。

ところが1970年頃から、いつのまにやら鹿やビーバーが姿を消し、森が枯れ始めるようになった。動物学者や植物学者が共同で調査にあたり、下した驚愕の結論は絶滅した狼の移殖だった。

もちろん、牧場経営者を中心に反対の声は激しくあがった。羊や馬、子牛を食い殺してしまう害獣として、苦労して駆除した狼を、わざわざカナダから連れて放つとは、どういうことだと抗議したのは当然だろう。

観光業者からは、狼の危険性を危惧する声が上がるのも、必然だった。周辺住人が、ペットの犬や子供たちの安全を考えて反対するのも、当たり前すぎる。

しかし、学者グループは、熱心に説明してまわり、今も反対はあるものの狼の移植を実施した。最初の12頭は、現在では1500頭を数えるまでになり、森は再び再生し、鹿やビーバーも数を増やしつつある。

いったい何が起こったのか。

狼が絶滅したのは1920年代のことだ。狼がいなくなったため、鹿には天国となった。襲われる心配なく、好きなだけ木々の新芽を食べつくしたため、1970年代の森は樹齢60年以上の高齢樹ばかりで、新しい木はまったく育っていなかった。育つ前に鹿が食べつくしてしまったからだ。

その結果、ビーバーは巣を作るための若木を得られず、姿を消した。鹿は食べられる木は、食べつくしてしまい、やはり森を去った。森は枯れ木が目立ち、乾燥化から土壌の悪化が起こり、砂漠化への道を踏み出し始めた。

ところが狼が戻ったことで、鹿は柔らかい新芽をゆっくり食べる余裕がなくなり、若木が育ち始めた。その若木を目当てにビーバーが戻ってきて、川にダムを築いた。狼の存在が、草食動物による草木の食べ尽くしを防ぐ結果となり、豊かな森が回復することになった。

もちろん、新たな問題もある。やはり狼は牧場の羊たちを襲った。人間への危害は報告されていないが、不安がる住人からの通報は後を絶たない。狼は予想を超えて拡がり、今や3州にまたがり活動している。

それでも豊かな森は回復し、鹿、ビーバー、バッファローなどの草食獣も以前より増えている。ビーバーのつくるダム湖により、魚さえ増加しているとの報告もある。狼という天敵が戻ったことで、自然がバランスを回復したと学者グループは結論づける。

さて、魔チて日本はどうだろう。植林により建築資材となる木々が異常に増加した日本の山野では、飢える熊や猿が続出している。実のなる雑木林が失われたからだ。

日本人の好きな桜で埋め尽くされた吉野の山では、その桜に病害が目立ち、立ち枯れが心配されている。NHKで報じられた番組では、温暖化の影響を指摘していたが、それだけが原因なのか?

私は日本の山野でも、木々の高齢化と荒廃が始まっていると心配している。役にたたない雑木林は美しくはないが、豊かな森を作る。天敵がいない山野で新芽を食べ放題の鹿たちが、森を破壊して土壌の流出さえ起こしている。未だ有効な対策は見出されていない。猿や熊は、食料の在る人里を徘徊するようになり、危害を加えられる事件さえ起きている。

人類の歴史上、森を失った文明は滅びの道をたどる。自然は微妙なバランスの元に成り立っている。温暖化という言葉が、最近あまりに安易に使われていないだろうか。それが気になるGWでした。
コメント (14)
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