ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

不撓不屈(高杉良)

2006-02-12 14:08:34 | 
まず、最初にお断りしておくと、私はTKCの会員ではありません。書くべきか否か、随分迷った本の一つです。

この本は、TKCの創業者でもある税理士、飯塚毅と国家権力との数十年に及ぶ戦いの記録でもあります。封建時代の王様は「朕は国家である」と言い放ちましたが、日本のエリート官僚達は、自分たちこそが国家であるとの強力な自負を持っています。一人一人は高慢であったり、夜郎自大であろうと、やはり国家権力そのものを敵にまわす恐ろしさが実感できる本でもあります。

飯塚先生は、その高度な知性に裏づけされた、高潔な人格者であり、高い理想を掲げ、それを実践してきた尊敬すべき人物です。仏門での修行により鍛えられた、その精神はあくまで気高く、その掲げる理想の実現に、全身全力をもって打ち込んだ人物でもあります。

されど、飯塚先生は俗人の愚昧さには、案外鈍感であったのではないかと私は感じていました。その掲げる高い理想は、高尚な精神に裏づけされてこそ、価値あるものです。しかし、大概の凡人は深い欲望と、低俗なる戸惑いに左右される存在であり、得てして欲に流され勝ちです。ゆえに多くの納税者が、節税ならぬ脱税に捕らわれてしまった。明確な脱税ならいざ知らず、飯塚先生の提唱された手法(別段賞与等)は、税法の隙間をついた印象は拭いきれなかった。

そこを飯塚先生に私怨をもつキャリア官僚が付けこんで来た。もの凄い勉強家であった飯塚先生は、不勉強からくる間違いを指摘することが、プライドが異常に高いキャリア官僚の面子をどれだけ傷つけたか気付く事が出来なかった。人間って奴は、感情に支配されやすい生き物なのですが、高潔なる人格は案外そのことに不感症なのかもしれません。

飯塚先生自体は脱税とは無縁であったとしても、その提唱された手法が脱税をそそのかしたと決め付けられて、数十年にわたり国家権力の横暴に振り回される恐ろしさ。なおかつ、それに耐え忍んだ人生に注目した作家、高杉良の慧眼にも敬意を表したいと思います。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする