のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

ナポレオン展3

2006-01-20 | 展覧会
1/19の続きです。
次の展示室に向かうと、いきなり『アルコル橋のボナパルト将軍』が迎えてくれます。




ごめんよ遊んじゃって、ナポ。カッコよすぎてちょっと恥ずかしいのさ。


ダヴィッドの優秀な弟子、ジャン=グロは、若き「ボナパルト将軍」が
乱戦のさ中、味方の兵たちを鼓舞するシーンを捉えています。

オーストリア軍に対して苦戦を強いられる中、将軍自らが軍旗を手にして
「諸君の将軍に続け」と叫んで敵陣に向かった という場面です。

役 者 で す ね え、アニキ!

もちろん「実際の勝利は本作に描かれているほど輝かしいものではなかった」(ガイドブック)ということです。
戦争 ですからね。

では、この場面をグロはどう描いたのか。
砲煙の立ちこめる中、削いだような頬の若い将軍は
右手に抜き身の剣を持ち 左手には強風になぶられる軍旗を握りしめ
さっそうと配下の兵たちを振り返っています。
淡色の髪は 軽やかに風を含み 軍服の金糸は 重厚に輝いています。
背景には放火を受けて燃え上がる建物が垣間見え、戦況の厳しさが表されています。

絵の中のナポレオンは、後年、ドラクロワが描いた 自由の女神 さながらに、力強く輝きを発しています。

○○民衆を率いる自由の女神(1830年7月28日)/ウジェーヌ・ドラクロア○○

グロはこの「救国の英雄」を、あたかも女神を描くような心地で描いたのではないでしょうか。
卓越した写実の腕を示しながらも(バックルの映り込みをご覧下さいませ)この絵は決してリアリズムではないのです。
だから「軍服がちっとも汚れてないぞ」というツッコミは、置いといてあげましょう。

この作品にしても、同セクションで見られる
『サン・ベルナール山からアルプスを越えるボナパルト』
(ダヴィッド!これを日本で見られるとは・・・)にしても、
ナポレオンを英雄として理想化し、わざとらしいポーズで描いているにもかかわらず、
「いかにもヨイショしている」といういやらしさが感じられません。
(ここよりも後、皇帝就任後セクションの展示作品には、このわざとらしい「ヨイショ感」が見られます)

これは、わざとらしさを感じさせない、画家の力量 ということもありましょうが、
画家が本当にモデルに惚れ込み、その美を描こうとしている
ということでもありましょう。

画家が 対象に美を見出す とは、一面、
画家が自分の心の中にある「美」というかたち無きものを、かたちある「対象」に投影するということです。
対象が生きた人間であった場合、対象と画家との関係の変化により、
往々にして投影は引き戻されてゆくことになります。
ダヴィッドも後年、ナポレオンと不仲になり、わざとらしさを感じさせる作品を描いていますが
(のろの印象ですよ、あくまで。)
ここで見られる作品は画家とモデルの蜜月という
幸福な状況で描かれたものであり、
それは その蜜月から200年ののちに作品を目にするわたくしたちにも
幸福感と 高揚感を もたらしてくれるのです。


あーーーー話が長いんだよ、のろ!
すみません、もう1回ぐらい続きます。


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