のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

8月6日

2011-08-06 | KLAUS NOMI
本日は
クラウス・ノミの命日でございます。

ここ数年80年代リバイバルがなんとなく進行中なのだそうで。ファッションにせよ音楽にせよ、ひと昔前のものはダサいだけですが、ふた昔前ともなるとティーンの皆様にとっては未知の世界であり、それ以上の人々にとっては懐かしい時代ですから、振り返るにはちょうどいいだけの時の隔たりなのかもしれません。

アート界でも振り返り現象が起きているのか、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館ではこの9月から『ポストモダン:様式と破壊 1970-1990』と題された展覧会が開催されます。
ここで何と、ノミのマネキンが展示されるらしいのですな。

Designing Postmodernism, Part 1: Concept Drawings | Victoria and Albert Museum
↑ The page you are looking for is temporarily unavailable.(一時的に見られない状態です)と突っ返されるかもしれません。時間をおいて試してみてください。

ああ、ものすごく売れたというわけでもないアルバムをたった2枚残して逝ってしまった人が、80年代を飾るアイコンの一人としてこうして取り上げられるなんて、嬉しいではございませんか。キュレーターさんの慧眼に、熱い拍手をさし上げなくては。
ところで80年代アートといえば最近ネット上で「ジャン・ミシェル・バスキアはクラウス・ノミとロマンティックな関係にあったが、バスキアがノミに何度も淋病をうつしたので関係が悪化した」という情報をしばしば見かけるんですが、本当なんでしょうかね?!

さて音楽の方ではくだんのDJヘル氏が、この5月に発売されたコンピレーションアルバム『Coming Home』で『Cold Song』を取り上げてくだすっております。記事にする順番が前後しましたけれども、そもそも『TEUFELSWERK』を買うはめになったのはAmazonで『Coming Home』をチェックした際、お勧め商品として紹介されていたのが目に入ったからでございまして、つまりは”ついで買い”させようというAmazonのもくろみにまんまと引っかかったわけでございます。



ジャーマン・ニューウェイヴの楽曲を集めたこのアルバム、いきなりクラフトワークの『Ohm Sweet Ohm』から始まって、かなりポップな曲の合間にニナ・ハーゲンの雄叫びや、いとも厳粛な『Cold Song』が挟まり、愛らしいシャンソン風の『Gute Nacht Freunde』から切れ目なくクラウス・キンスキーのライヴ・パフォーマンス(一人芝居?)に突入し、フェードアウトで幕、という何とも変態的な構成でありながら、これが意外と聴きやすかったり。ニナ・ハーゲンの所は少々音量を下げないといけませんけれどね。さもないと「隣室から異様な叫び声が聞こえる」って通報されそうなので。

ニナ・ハーゲンといえばドイツのポップデュオRosenstolzとオープンゲイの英ヴォーカリスト、マーク・アーモンドと一緒に『Total Eclipse』をカバーしておいでですね。そのPVがYoutubeで見られなくなって久しい...と思ったら、こちら↓で見ることができました。

nina hagen + rosenstolz + marc almond + - total eclipse on melcebu's Videos - Buzznet

終末的でたいへんよろしいですね。恐いです。いやほんとに。

ノミにリスペクトを捧げる、あるいはヤツからインスピレーションを受けるアーティストも、主に音楽とファッションの分野において、年に一人以上の割合で継続的に見受けられます。
昨今話題のレディ・ガガさんについては言わずもがなとして、今年メジャーデビューなさったらしいBLITZKIDS mvt.というドイツのバンドはヴォーカルの女性がNomiと名乗っており、ファッションもメイクも明らかにヤツを意識したものとなっております。童顔に眉無し恐顔メイクかつ無表情というのがよろしい。お人形さんのようでございます。

しかし残念ながら、楽曲や歌唱にはそれほど際立った個性は感じられません。決して悪くはないのですが、ノミの後継者をもって任ずるならば、もっとガツンとはじけた個性を打ち出してくれなくては。曲が耳に残らないというわけではない、しかしそれは心に残る一節があるとか、歌唱が印象的であるという理由からではなく、むしろ単純でキャッチーなフレーズが何度も繰り返されているからであり、またファッションも、奇抜ではあるけれども飽くまでも安全圏内での奇抜さという感じがいたします。以上の二点はガガ嬢にも当てはまることとワタクシ思うのですが。

えっ
クラウス・ノミと比べたらそりゃ誰でも安全圏内に見えるだろうって。
まあ、そうなんですが。そもそもヤツは大気圏外のひとでございますしね。

BLITZKIDS mvt.は2曲目シングルの『Water』で歌詞を確信犯的に無意味なもの(◯◯も◯◯もいらない、ただ水がほしい...の繰り返し)に切り詰め、かつPVでは前作よりもいっそう無表情になっているあたり、なかなかイイではないかと思います次第。このままずんずんロボット的な方向に邁進していただきたいものよと期待をかけつつ、これからの展開を見守りたく。

またファッションにおいてはZarah VoigtというジュエリーデザイナーがNomi collectionというシリーズを売り出しておいでのようです。

Zarah Voigt - NOMI Collection

おお、ノミっぽい。
そう、スリー・ポイント・ヘア、目もと、唇、ボウタイ、プラスチックタキシードの上下そしてトンガリ靴と、頭から爪先まで、モノクロームの三角形が大きさを変えながら縦に反復するヤツの”正装の火星人”ルックは、実は「かたち」としてはとてもカッコイイと思うですよ。
もちろん、変な衣装に変なメイクをまとって裏声で歌う男性、という点のみに注目すればヤツはいたって奇矯な存在ではあり、またその奇矯さがどうしても目につきがちであるということは否めません。しかしただただ奇矯なだけだったら、あるいは、その表現様式が80年代といういち時代にのみ訴えるものであったなら、これほど継続的に、また多くの表現者に、インスピレーションを与え続けることはございますまい。80年代リバイバルが起きているといっても、80年代のあらゆるものがやみくもに再興しているわけではないのです。

バイエルン出身のアーティスト、クラウス・スパーバーは1983年の今日、亡くなってしまいました。それはどうにも否定しようがございません、残念ながら。
しかし宇宙から落ちて来た歌う変異体クラウス・ノミは、少々ひねた人々のためのエンターテイナーとして、そして創造的な人々のためのインスピレーションとして、表舞台からは一歩退いた場所で-----例えるならばお客が出払ったあとのオペラ座、貧乏アーティストが集う安アパート、あるいは街路灯を浴びる夜の雪だまりの上で-----生き続けてまいりましたし、これからもきっとそんな、わびしくも輝かしい場所で、生きていくことでございましょう。



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4 コメント

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Unknown (Lusopeso)
2011-08-16 15:00:19
もう今年もノミ様の命日が来てしまいましたね

最近ノミ様から入ってクラフトワークやらディーヴォを聴いてる私ですが、ノミ様に影響されるアーティストはやはり多いんですね

大気圏外って表現に笑ってしまいましたww
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のみ忌 (のろ)
2011-08-16 22:49:35
ええ、世の中では8月6日といえば広島原爆の日であり、何よりもあの人類史上に黒々とそびえ立つ愚行と、その下でもがき苦しみながら死んで行った人々に思いを致すべき日ではあります。
それは分かっているのですが、ヤツのことを知って以来、ワタクシにとってこの日は他の何よりも先んじて「クラウス・ノミの死んだ日」として認識されてしまいます。

ヤツの影響を受けるアーティストがコンスタントにいるのはまことに嬉しいことです。とりわけ、いっときに大勢の人が大々的にオマージュを捧げるというのではなく、年に1人2人くらいの割合で散発的に現れるというのがいかにも、メインストリームには乗り得ないながらもコアな人々に熱狂的に受け入れられた/受け入れられているノミらしくて、よろしいのではないかと。

>大気圏外
ほんとにね、この人、宇宙の彼方から落ちて来て、ちょっと地球に立ち寄っただけであったならなあ、なんて思ってしまいますよ。たとえ活動していなくても、遥か遠くで隠居生活していても、ただ生きていてくれるのなら、それだけでも嬉しかったのです。
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ノミ。。。 (オクタヴィアン)
2011-08-24 20:30:15
はじめまして。
わたくし、つい最近になってノミを知りました者。
しばらく前からROMさせていただいていました。

リアルタイムを知らないので、youtubeなどで動画を探す毎日を経まして、
それだけではもの足りず映画のDVDやら数少ない音源を手に入れてしまい、
ますます彼の虜に。
もう本当にどうしてこんなにも早く亡くなってしまったのか

そして、ちょっと前来日されたガガ嬢を見る度に思い起こされるは・・・どうにもこうにもノミです。

才能ある人に限って早くに地球を去ってしまうのですね。遥か遠くの星でのほほんと暮らしていて欲しい
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こんにちは (のろ)
2011-08-24 23:46:42
オクタヴィアン様、いらっさいませ。
お名前の由来は「ばらの騎士」でしょうか?

ワタクシも残念ながらリアルタイムではヤツの存在すら知りませんでしたし、知っていたとしても自主的に何かができる年齢でもありませんでした。
もう少し早く生まれていたらなあ、と思うことしきりではありますが、youtubeをはじめ、グローバルなお買い物が可能なインターネットという便利ツールが登場してくれたことについては、今の世に生きていることをまことにありがたく感じております。
英語や日本語のみならず、ロシア語(らしきもの)や中国語、イタリア語のブログなどでもノミを取り上げているものに出会うと、全く読めないながらも無性に嬉しいですね。

>それだけではもの足りず映画のDVDやら数少ない音源を手に入れてしまい

分かります、よっく分かりますとも。
もうどんなき切れっ端でもいいからヤツに関する情報が欲しいのです。
Za Bakdazのように作品としてまとまったかたちでなくても、ふざけて撮ったビデオやデモテープの断片、また片隅に写っているだけの集合写真でもいいから、とにかく世に出てほしいと思って、日々ネットを漁ったりしている次第です。

>才能ある人に限って早くに地球を去ってしまうのですね。

う~ん、もちろん才能があってそこそこ長生きしている人もいるわけですが笑、どんな分野においても、早世した芸術家にはやっぱり独特の、濃密な輝きがありますよね。
熱狂的なエルヴィスファンの間ではエルヴィス生存説がそれなりに信じられているというのも、理解できないではありません。
だって、生きていてほしいですもんね。
たとえ活動していなくっても、どこかで幸せに暮らしていてくれたらそれでいいのです。
そう、どこか遠くで、のほほんと。
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