のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ルパン三世 血の刻印』(追記あり)

2011-12-03 | 映画
注意:以下、愚痴のみです。
追記も愚痴のみです。



ルパン三世TVスペシャル製作スタッフの皆様にお願いです。
どうかもう新しい「ルパン三世」は作らないでください。

なおも新作に取り組むおつもりなら、問題は声優にあるのではなく脚本にあるのだということにどうか気付いてください。カリオストロを踏襲するのもいかげんにやめてください。「巨悪を挫いて世界を救い、ついでに可哀想な美少女を助け、結局一文も盗まずに退散するルパン」はもう結構です。
後半で人質になることが見え見えな勝ち気少女に「ルパン先生!」と連呼させることや、ジブリ映画をはじめ他の作品を容易に連想させる台詞やシーンを(オマージュです、という言い訳にも無理があるほどのレベルで)わんさか寄せ集めた展開、そうしたものが面白いはずだと、本気でお思いになったのですか。

(追記1:そもそもオマージュやパロディというものは、本筋にはさして影響のない、いわば”遊び”の部分でやるものでございましょう。『ルパン対複製人間』では1stシーズン『魔術師と呼ばれた男』を連想させる台詞がありましたが、知っている人がニヤリとするぐらいのささやかなものでございます。2ndシーズンの名作『追いつめられたルパン』ではチャップリンの『独裁者』のパロディシーンが長々とございましたが、これは30分の時間を埋めるためのお遊びでもあり、また2ndシーズンの中では比較的シリアスなこの話におけるコメディリリーフでもあり、いずれにしてもストーリーの流れとしては別に必要なシーンではございません。
ところが今回のTVスペシャルときたらいよいよ大詰めという差し迫った場面で、悪役のナントカ社長が「実は私はそこの特別な少女と同じく、コレコレの末裔なのだ!」と重要なぶっちゃけ話をなさったりするわけです。タイミングも設定もあまりにもラピュタ。あまりにも。一瞬、ナントカ社長のギャグかと思いましたですよ。いやむしろその方がよかった。こういうものはオマージュとは呼べませんし、パロディのつもりだとすれば、あまりにも場違いでございます。)

ゲストキャラ少女のお涙頂戴話などいりません。そもそもあの弟子入り少女、ストーリー的に全く必要ないのでは。宝石探しも逃走劇も、ルパンとその仲間がやればいいことではございませんか。ゲストキャラの大活躍など見たくないのです。人々が『ルパン三世』を見るのはルパン三世とその一味(&銭形)のファンだからなのであって、リンダやクラリスやコーネリアのファンだからではないのですよ。いや、まあ、コーネリアは好きですが。
ルパン次元五右衛門不二子ちゃんそして銭形の騙し騙され丁々発止や追いかけっこが『ルパン』シリーズのキモなのであって、ゲストキャラの背景は台詞でさらっと説明するぐらいで充分でございます。『ルパン対複製人間』や『お宝返却大作戦』がそうであったように。ゲストキャラの回想やら何やらを抜きにしたら2時間弱の尺をもたせられないというのですか。ならばどうか3年でも5年でもかけて、盗み&謎解き&追っかけっこメインで2時間弱をきっちりもたせられる、いい脚本を作ってくださいましよ。

少女が登場した時点でもう先の展開が何となく読めてしまう、そんなお話でいいのですか。
少女奮闘、悪役自滅、ルパン人助け。
たまにはお宝をごっそり頂いて大笑いのルパンで締めたっていいじゃございませんか。それじゃ泥棒賛美になるから駄目ですって。そんなの、最後の最後で不二子ちゃんが全部かっぱらって行けばいい話じゃございませんか。それをやっても許されるのが不二子ちゃんというキャラクターでございましょう。逃げる不二子を追いかけて行ったら向こうから銭形登場、Uターンして逃げるルパン、お前のせいだかんなと毒づく次元と五右衛門、まぁ~てぇ~と追うとっつぁん。申し分ない終幕ではございませんか。

(追記2:”お約束”というのは先の読めない展開の中にふと現れるからこそ効果的な、一種の安心要素であり、送り手である制作者と受け手である鑑賞者の間に交わされる目配せのようなものでございます。これだよな、そうそう、これだよ。目配せであるからには一瞬顔を上げてちらっと、というぐらいが適当なのであって、終始真っ正面を向いて「さあウインクするぞ、ウインクするぞ、そら注目、ばっち~ん!どうだい!じゃあもう一丁!」という具合にやられたのでは、受け手としてはげんなりせざるをえません。本TVスペシャルは
ルパン三世としても、あるいは一般的なエンターテイメント作品としてもお約束まみれで、まさに上記のくどすぎる目配せのように、見ていて嫌になりました。
お約束、王道、というものは、味付けしだいで素晴らしい効果を発揮するものでございます。またパターンが決まっているからこそ、それをどう料理するかということが制作者の腕の見せ所なのではございませんか。例えば五右衛門のお約束といえば「またつまらぬものを斬ってしまった」という台詞でございますが、『お宝返却大作戦』では五右衛門が敵のヘリをまっぷたつにして例の台詞を言った直後に、メイン敵キャラの一人であるミーシャがヘリから脱出しながら放った銃弾を背中に受けて、ストーリーの終盤にまで関わる重傷を負っております。これはお約束のパターンを適度にずらし、かつ視聴者がこの敵キャラに対して「こやつ、なかなかできる」と一目置くことに資する見事なシーンでございました。そう、敵ながらアッパレというぐらいの相手でなければ、どんなに派手な死に方をしようとも、そこにはカタルシスもへったくれもないのでございます。)

ルパンに自分探し的な台詞や相田みつを風ポジティブメッセージを吐かせるのもやめてくださいまし。薄っぺらなシリアス演出には心底がっかりします。カッコよくないのですよ、端的に言って。いっそ無茶すぎるガジェットや神出鬼没すぎるとっつぁんといったハチャメチャな展開で押し通して、最後の最後だけぴりっと締める、ぐらいのバランスでもいいのではないでしょうか、と申しますか、現状ではそれ以上のものを期待できません。

あと五右衛門の殺陣がちっともカッコよくないのはどうしたことですか。1stおよび2ndのTVシリーズではいちいちコマ送りしたくなるほどの美しさがあったというのに。敵の用心棒を斬るくだりも「修行が足りない→修行した→斬れた」というあまりにもひねりの無い展開。思わず「は?」と声が出ましたですよ。まあ「女に騙される五右衛門」というこれまたうんざりなキャラクター造形を退けてくだすった点だけは大いに評価したい所でございますが。

それから悪役に魅力がございません。全くございません。
悪役loverののろがもう一度申しますが、全くございません。
大物のオーラもダンディズムも茶目っ気もない、ただ残虐で欲深いだけの悪役ほどつまらないものはございません。そんな奴が最後に怪物化したところで、マモーのような哀愁もなければどうやっても倒せないという緊張感もなく、結局あの穴から一歩も出ないまま自滅。ええ、自滅でしょうあれ。
むしろ冒頭でルパンに盗みを指示した和服のおばちゃんが、終盤までサブ悪役として活躍してくれたらよかったのに。メイン悪役のナントカ社長とはひと味違う、骨董品を愛する矜持ある悪党として、ルパンたちと手を結んだり裏切ったりと三つ巴の展開を見せてくれた方が、可哀想な少女の思い出語りで所々ぶったぎられる劣化版インディ・ジョーンズよりもよっぽど面白かったのではないかと。

何だかんだあって結局最後は超常現象が解決、というアプローチそれ自体が悪いわけではございません。ただ、「それルパンである必要があったの?」という疑問が、話が進むにつれてふつふつと沸き上がってきたのでございます。あっ さり見破られる変装で敵陣に乗り込んで来たり、賢さや機転や常人離れした発想ではなく身体能力だけが突破のカギとなるトラップ(=仕掛けは『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』そのまんま、ただし謎解き要素もタイムリミットも欠落したやつ)に踏み込んでいったり、クライマックスではほとんど役に立たず傍観者の立場に終始する人物が、世界一の大泥棒である必要がどこにあったのかと。

そうした点から見ると、初代ルパンを絡めた最終盤の演出は、唐突ではありましたがなかなかによいものでございました。旅客機はおろか飛行機もろくすっぽ飛んでいなかった時代、船で何十日もかけて日本に来るなんてよっぽど暇だなアルセーヌ、というツッコミもにわかには浮かばないほど、このくだりには『ルパン三世』としての魅力と説得力がございました。そう、どんなに荒唐無稽であろうとも、その無茶さを補ってあまりあるほどの魅力、渋さ、痛快さが『ルパン三世』の醍醐味なのではございませんか。

とまあいろいろ申しましたが
「近年の作品群に比べれば断然マシ」との声もある本作。ワタクシは最も酷かったという過去数年間のTVスペシャルを見ておりませんので、相対的に辛い点数をつけてしまっているのかもしれません。
また本作は40周年記念作品、しかも声優陣が一新ということで、きっと気合いの入った作品を作り上げてくれたことだろう、と(それなりに)期待を寄せてはおりました。その期待を満たしてはくれなかったという失望が、ワタクシをしてかくも長々しい愚痴を吐かしめたのでございましょう。





最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Lusopeso)
2011-12-06 20:26:57
お久しぶりです。
同意いたします。

結局、ゴールデンタイム向けの無難なバラエティ番組のようなチープさに支配されてしまってますね。
返信する
いらっさいませ。 (のろ)
2011-12-06 22:46:03
Lusopeso様、ありがとうございます。
ストーリー的にはごく安易である一方、細部においては残酷描写が多いというのも何ともチープなことではありました。視覚的にグロを強調することが大人向け演出であると、制作者の皆様が勘違いなさったものでしょうか。
毎週放送の30分番組ならチープでもまあ構いませんが、1年に1度のスペシャル番組にしてこの出来というのは...。
そうそう、脚本の酷さに圧倒されたあまり、交代した声優陣について考える余力がありませんでした。おおむね違和感なかったような気がしますけれども、とにかく声よりも脚本と演出の方をなんとかしないことには、作品としての未来がないように思います。
返信する
30分で十分 (プーン)
2011-12-11 18:59:53
先日、ルパン三世を久しぶりにTVで見てビックリしました。
あまりにつまらなすぎます。
無理に2時間作品にせず、30分作品を4週に渡って放映していただきたい。
30分という短い枠の中なのに、たっぷりと間を取った登場人物たちのクールな描写が再び観たいものですな。
返信する
Unknown (のろ)
2011-12-11 22:48:15
プーン様、お名前から察するに1stファンとお見受けしました。
まったくです。今回のTVスペシャルは、あの尺をひっぱるにはあまりにも話が退屈であり、その一方でゲストキャラ絡みのいらぬエピソードを詰め込みすぎで、ルパンたちのクールな魅力がまるっきり描けていなかったように思います。
シリーズで放送されていたものは今見ても面白いのに、本作の体たらくは一体どうしたことでしょうか。それでも、記事の方で書きましたように「近作に比べたら面白かった」という意見を少なからず見かけるということは、ここ数年の作品がよほど酷かったということなのでしょう。
この尺のものを今後も製作するならば、もっと時間(とお金?)をかけて、往年のファンをも満足させるだけの質の高いものを作っていただけたらと願うばかり。あるいは、おっしゃる通り、30分尺のものを数回に分けて、というつくりの方が、一回ごとの緊張感が保たれてよいのではないかと思います。
返信する

コメントを投稿