のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

30th anniversary 1

2013-08-06 | KLAUS NOMI
1983年8月6日にクラウス・ノミが小さな宇宙船に飛び乗って星々の彼方へと旅立ってから、地球時間でちょうど30年が経過しました。
それを記念してということでございましょうか、今年はノミ関係のイベントが色々催されております。
まとめて記事にしようと思ったのですが、思いのほか長くなりましたので、二回に分けてお届けいたします。
では。

2月8日~3月7日
ヤツの生と死と芸術を描いたダンスパフォーマンス「Do You Nomi?」が、スコットランド各地で巡回上演されました。



で、DVDの発売はいつですか?
主な出演者は俳優2人とダンサー2人で上映時間は約1時間10分、動画を見るかぎり、わりとコンパクトな舞台のようでございます。
ディレクターのグラント・スミーソン氏(51)はノミの生前からのファンでいらっしたとのこと。

「ノミは1983年に亡くなったけれども、いまだに謎の存在だ。彼についてはよく知られていないし、書かれたものも多くはない」
「でも音楽通の人なら当時からクラウス・ノミを知っていた。ここグラスゴーでさえ」
「パンクやニューウェーヴのファンだけでなく、オペラ好きの人たちにも愛されていた」
「冷戦終盤、そしてレーガン、サッチャーの時代だったあの頃、核戦争で世界が終わるかもしれないという雰囲気を皆が感じていた。ノミの異世界性(otherworldliness)はある意味、そういう現実からの逃避の試みだった」
「彼は70年代末から80年代初頭を象徴するようなキャラクターだった。つまり、まだポップスターが商品化されていなかった時代だ」
「80年代を通して、ポップスターのパッケージ化が進んだ。パンクからニューウェーヴへの移行期にあたる1983年前後は、ミュージシャンにとっても、実験的な活動という面でも、実りの多い時期だった。クラウス・ノミの世代はその最後にあたる」
「彼が生きたのは変化の時代でもあった。彼は私が聞いた中で初めてのエイズによる死者だった」
「 individualism(個人主義、独自性、個性の発揮)の問題。素晴らしい才能の持ち主であったにも関わらず、彼はとてもシャイな人物だったのだと思う」
「小柄で、子供の頃はいじめられたんじゃないだろうか。同性愛者でもあったし、あの時代に彼が自分らしく生きるのは大変だったろう。そこで彼はニューヨークへ逃れた。そこでなら安心できるし、なりたい自分になれると感じたのだろう」
「そこから彼の舞台上のペルソナは、彼自身を表現するための仮面となった」
「私は今でも彼の曲を聴く。彼の声にも、存在全体にも魅了される。(この劇によっても)謎の根幹に達することはないだろう。だからこそ彼の物語は魅力的なんだ」


原文は↓こちら。画像はこの劇におけるノミとボウイ。

THEATRE - Do You Nomi, at the Tron | Evening Times

それにしても。
以前にも申したかもしれませんが、こういう画像を見ますと、あの「教会へ行く火星人」のような恰好が似合う風貌というものが、いかに特殊な存在であるかがよーく分かりますね。
子供のように頭でっかちな体型、人形のように細い首、目も鼻も頬骨も顎の線もこぞって鋭角な顔立ち、むやみに秀でた額、そしてあの、思いがけなく無防備な微笑み。どんなにそっくりの衣装やメイクをまとったところで、これらを真似ることはできませんもの。

スミーソン氏のコメントの中で、’70末~’80初という時代の社会的な雰囲気と、そこからの逃避としての「異星人ノミ」について語られておりますね。ノミの友人で『Total Eclipse』や『After the Fall』を作曲したクリスチャン・ホフマン氏も、同様のことをおっしゃってましたっけ。

「彼の歌の中でも一番バカバカしいもの(『Lightnin' Strikes』)にしても、震えが来るほど荘厳な曲(パーセルの『Death』)にしても、差し迫った黙示録への意識があって、それが曲に説得力を与えている。クラウスにとって、黙示録は浄化のメタファーだった。シニカルな無関心やあきらめが蔓延している中で、彼は風変わりな楽天主義者として、あえてよりよい世界を信じたんだ」

原文はこちら。
Klaus Nomi Home Page Keys Of Life

ワタクシ自身は核戦争の恐怖というのを身近に感じたことはない世代でございます(世代というより、地域によるものかもしれませんが)。物心ついた頃にはまだベルリンの壁はありましたけれども、核ミサイルは「飛んで来るかもしれないもの」というよりも「とんでもないお荷物」であり、核戦争というのはあくまでも『最後の子どもたち』『風が吹くとき』といった深刻なフィクション作品の中だけのものでございました。ですから上記のコメントのように、当時漂っていた終末感との絡みでノミについて語られても、そういうものか、ぐらいにしか思っておりませんでした。

2011年3月11日以来、つまり日本がこんなことになってみて初めて、あの時代にあのフザケタ恰好で『Total Eclipse』や『After the Fall』を歌うということが、どんなにとんがった行為であったかが、少し分かったような気がしております。
”人類に警告をしに来た宇宙人”が、「放射性降下物ばんばんでもう誰も残ってないや」とか「原子に還りながら身体がばらばらになるまでラストダンスを踊ろうよ!」とか「何百万年もかけて築き上げた文明を、ぼくらは電気椅子にかけちゃう!」とか「放射能まみれでミュータントだらけだけど、大丈夫、明日は来るさ!」とか歌うんですぜ。...

それでも人類がきちんと警告を聞いて来なかったもんですから、ノミの眷属たちが今もこうして↓出張して来てくれているのでございます。

原発ナシデ暮ラスノミ - Kai-Wai 散策



2月23日
以前の記事でもご紹介したDJヘル氏が『COLD SONG』のリミックス版をリリースしたのに合わせて、ベルリンのナイトクラブでPV上映およびライヴイベントが開催されました。
SHIFT: Klaus Nomi x DJ Hell x Voin de Voin&Kinga Kielcynaska

DJヘル版『COLD SONG』のPVはYoutubeで見ることができます。が、あえてここには貼りません。ワタクシには残念ながら、あんまり素敵な仕上がりとは思えませんでしたので。とりわけ映像の方ですが、頽廃的な雰囲気ですとか、荘厳さと隣り合わせのキッチュ感といったものを醸し出そう醸し出そうとはりきりすぎて、いささかダサめなものになってしまっているような気が。
ダサめなんて言い過ぎかしらん。原曲に思い入れがありすぎるため、見方が厳しくなってしまっているのかもしれません。いやいやしかしノミファンたる者にとって、この曲を思い入れなしに聴くことなんて不可能ではございませんか?

映像を制作されたVoin de Voinさんによると「オペラ(パーセルによる『アーサー王』)のストーリー、特にアーサー王が魔の森に入って行く場面をベースにした。だからここには死を免れない普通の人間と、魔法使いや死の天使といった別世界の存在が登場して、互いに混ざり合う。常に視点を変えることで、物質と非物質、天国と地獄、見えるものと見えないものなどのテーマを巡って、色んなコミュニケーションの道筋が開けるようにしたんだ。いわば、決して達成されることのない精神的な探索だ」...とのことです。

映像の制作者自身による詳しい解説(英語)はこちらで聞くことができます。
DJ Hell presents: Klaus Nomi - Cold Song // Image Analysis by Voin de Voin & Kinga Kie�czy�ska on Vimeo

ともかく、こうしてヤツに新たなスポットライトを当てていただけるのは嬉しいことでございます。これを通じて原曲を知るかたもいらっしゃるかと思いますしね。



3月15日~4月27日
ジェンダーの曖昧さを扱った小展覧会『Ladies & Gents, Unsexed』開催。
イースト・ヴィレッジにおけるノミの貧乏アーティスト仲間であり、ヤツの作るパイやケーキに日常的にありついた友人の一人でもある写真家、マイケル・ハルスバンド氏によるノミの写真が展示されました。
どうもサイト名で自動的に弾かれるらしく(商業用サイトとみなされるため?)、記事へのリンクはできませんでした。上記の展覧会タイトルで検索すると出て来ます。別に怪しいサイトではございません。トップには映画『ノミ・ソング』でも紹介された、真正面向きのアイコニックな写真が。

ハルスバンド氏もコメントを寄せてらっしゃいます。
「彼は人目につくけれど、とてもあか抜けて(refined)いた。ここで着ているプラスチックの奇妙な衣装は、彼が自分でデザインしてブロードウェイの業者に作ってもらったもの。この撮影の時に始めて身につけたんだ。ポーズを少しずつ変えながら20ロール分撮影した」とのこと。
つなげたらアニメーションができそうですな。
それにしても例のプラスチックタキシード、この時初めて着たとは信じられないようでございますね。だってあれ、この世に生まれて来た時から身につけ続けているかのような似合いようじゃございませんか。

ハルスバンド氏はrefined(洗練された、あか抜けた、上品な)とおっしゃておりますけれども、同じく友人の一人であったアン・マグナソン女史も、普段のノミを描写するにあたってsophisticated(洗練された、あか抜けた、しゃれた)という言葉を使ってらっしゃいますね。具体的にどんな風だったのかを、ぜひとも知りたい所でございます。同女史の「いつも黒服を着ていて、すごくドイツ人っぽかった」という証言もありますが、「ドイツ人っぽい」ってどんなんだ笑。

話はそれますが、少し前にVoltaire(ヴォルテール)と名乗るキューバ系米人ミュージシャンの『The Devil's Bris』というアルバムを買ったのです。ちなみに『カンディード』の作者とは無関係。黒地にちっちゃい白抜き文字で印刷された、いかにもゴスで甚だ読みづらいライナーノーツをよくよく見たらば「cover photo: Michael Halsband」とあるではございませんか。
ををををを!これノミのお友達じゃんか!!と、ミュージシャン本人とは関係ない所で興奮してしまいました。


次回に続きます。