のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ドゥシャン・カーライ展』

2010-06-19 | 展覧会
クローゼえええぇ



それはさておき

滋賀県立近代美術館で開催中の『ドゥシャン・カーライの超絶絵本とブラチスラヴァの作家たちち』へ行ってまいりました。
東欧絵本作家の第一人者、ドゥシャン・カーライ。例年の国際絵本原画展でもおなじみでございますね。本展は原画初公開のものも含めほとんどがカーライ作品で構成されているというファンには感涙ものの展覧会で、たいへん見ごたえがございました。

奥さんに誕生日プレゼントとして贈ったという、外にも内にも幻想的なイラストが描かれた化粧品箱や、氏の版画作品を挿絵とした限定出版本といった珍しいものも展示されており、絵本作家としての側面しか知らなかったのろには嬉しい驚きでございました。
と言っても、もちろんメインの展示は絵本原画でございまして、これはもう質も量も圧巻でございます。浮遊感を伴う幻想的な色使いと「詰め込み式」とでも呼びたい独特の空間表現、そして細密描写が相まって、画面の中にひとつのアナザーワールドを作りあげております。それが、お客さん、驚きの総勢250点ですぜ。
ほとんどの作品はグアッシュ(不透明水彩)と紙、というごく月並みな画材で描かれておりまして、意外な感じがいたします。だってこの、鮮やかで、しかも深みのある、この世ならぬ色彩でございますよ。何か特別なものを使って描かれているに違いないと思うではございませんか。


「船乗りシンドバッド」を題材にしたアニメーションの企画もあったらしく、その背景画やセル画も展示されておりました。媒体が異なるというだけでこんなにも印象が変わるものか、と、これまた面白いものでございました。デザインは確かにカーライそのものでありながら、マットな塗りや黒一色のはっきりした輪郭線の絵は絵本原画とはまったく違う雰囲気でございます。むしろ仏コミックアートの巨匠メビウスっぽい。しかしこの企画、プロジェクトが壮大すぎて実現しなかったとのこと。残念至極でございます。

また魚やキノコを博物学的な精密さで描いた切手用イラストなんてものもあり、小さいながらこれまた興味深いものでございます。そのモノクロの、しかし生き生きとしたイラストレーションを見ますと、絵本挿絵に見られるかの幻想の王国は、生物のかたちに対する緻密な観察眼と描写力という地盤の上にこそ築かれているのだということがよくわかります。想像力の羽ばたきを紙の上に定着させる力、かたちや遠近法を自由に崩してデフォルメする技量。そうしたものの根底には、たゆまぬ技術的研鑽と対象に向かう謙虚なまなざしがあるのでございます。

本展で唯一の不満は、図録の絵を縮小しすぎであること。点数が多いのでいたしかたのないことだったのかもしれませんが、ただでさえ細かいカーライの絵を、一部とはいえ花札サイズにまで縮めてしまうのはいかがなものか。結局いつもの「実物を見たあとでは買う気にならんシンドローム」に見舞われて購入を見送りました。何年か前に京都で開催された月岡芳年展の図録も、展覧会自体は素晴らしかったのに、図録は縮小しまくりなのにげんなりして買わずじまい。少々高くなっても、かさばっても、いいものが買いたい、と思うのは決してワタクシだけではないと思うんでございますがねえ。