のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『下村良之介展』

2008-08-13 | 展覧会
下村良之介展---「日本画」再考への序章 へ行ってまいりました。

鑑賞にエネルギーを要する作品が多いかもしれないと少々身構えて行ったのでございますが、意外とユーモラスな作品もございまして、先入観はイカンなと改めて思った次第。

見るのにエネルギーを要する作品、とは飽くまでワタクシにとってという話でございますが、どういうものかというと例えばこういう作品でございます。



紙粘土で凹凸をつけた画面に顔料で彩色を施しております。
旧来の日本画に飽き足らなかった「反骨の画人」がその画業の後半に、独自に開発した技法でございます。
鋭い線と絵肌の重厚さがあいまって、ただならぬ雰囲気をかもし出しておりますね。
鳥の姿かたちを解体し、動きの印象へと還元したかのような造形は呪術的な感じもいたします。
ハトや雀といった特定の種類を描いているのではございませんで、鳥という生物の持つ造形的な鋭さや、自分の力で飛翔するという特性に託して、鋭く重厚なイメージを表現したようでございました。
それが具体的なある種の鳥、軍鶏や鷺や梟のかたちをとることもございますが、画家いわく、そういうのは心が弱くなっているときに描いたものであって、本当はよろしくないのだと。

そうは言われても俗物であるワタクシは具体的な鳥を描いた作品方が好きでございました。
緊張感の漂う画面でありながらも鳥たちの表情はどこかユーモラスでございます。
透明感のある色彩は、連日の熱帯夜にて寝不足気味な目には心地よいものでございました。

ユーモラスといえば、「やけもの」と題された陶芸作品も面白うございました。
やけに不機嫌そうな豚やシルクハットをかぶった小鳥たち、水玉模様の猿にひょっとこ顔の壷などなど、あんなこともやってみよう、こんなこともやってみよう、という画家の遊び心が伝わってまいりまして、見ているこちらまで楽しくなってしまいます。
また、自画像は展示の冒頭と最後に計6点ほどございまして、これまたどれも面白いものでございました。
ごく若いころの、ぐりっとこちらをねめつける表情も印象的でございましたし、身の回りのものを画面上に整然とちりばめた「還暦の自画像」は、古い引き出しの整理整頓風景のように、個人的でおもちゃ箱的な趣きがございました。
画家自身はわざとらしいほど真っ赤なジャケットを着込んで、赤い帽子をかぶり、自分の作品や古い写真、外国の工芸品、はたまた種痘の証明書なんてものにまで囲まれて、椅子に腰掛けております。
まっすぐにこちらを見つめるまなざしは「まだまだいろいろ造ったるもんね」という気概で輝いておりました。

氏が75歳で亡くなってから今年で10年。本展は初期のキュビズム的な作品から絶筆まで、かなりの点数を揃えた大規模な回顧展でございます。
日本画という概念にとらわれない自由で独特な表現を模索し続けた画家の生涯のモチーフであった鳥たちは、時には厳しいほどに鋭く、時にはひょうきんで可愛らしい姿で、「反骨の画人」の精神を語りかけて来るのでございました。