のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ドイツ・ポスター展』

2008-03-13 | 展覧会
ドイツ・ポスター 1890?1933 | 京都国立近代美術館 へ行ってまいりました。

ポスター展は実に楽しいものでございます。
ポスターにせよ絵画にせよ、共通している課題は
・3次元に存在しているものを、2次元上でいかに表現するか?
・かたちとしては存在しないもの-----思想、感情、雰囲気、物語など-----をいかに視覚化するか?
といったものでございますが
ポスターの場合はさらに、
・テキスト(文字情報)とイメージ(図像)との関係
・モチーフのデザイン化
・明確なメッセージ性
などの要素(あるいは制約)がからんでまいりますね。
この制約の中で、どれだけインパクトのある、いいものを創ることができるか?という所が面白いんでございます。
臆面もなく盛り込まれたケレン味も、楽しうございますね。
ウーム、そう来たか!と唸らされます。

おおむね年代順に作品が並んでいる本展。
そのデザインや内容の変遷に、19世紀末から20世紀初頭のドイツの世相や
流行の美術様式を見ることができます。

19世紀末のドイツあたりといったら、分離派であり、ユーゲントシュティールでございますね。ほくほく。
本展にはユーゲントシュティール(青春様式)という語のもととなった雑誌「ユーゲント」も展示されております。
驚くのは、そのデザインの自由さでございます。
ここ
バラエティ豊かな表紙デザインの一端を見ることができます。
(↑年代を選んでクリックしてください。 |zurück| をクリックするとはじめの画面に戻ります)
イラストもレイアウトもタイトルロゴさえも号ごとに異なっておりまして、同じ雑誌とは思えないほどでございますね。

傑作だったのがこれ。



おしおきでございましょうか、2人の若い娘さんが、小さな老人に耳を引っぱられております。
JUGEND(若さ、青春)をうたった雑誌にはどうも似つかわしくないイラストでございますねえ。
それどころか、何と誌名がALTER(老年、老人)になっているではございませんか。
これは一体...
と、よく見ましたらこれ、4月1日発行号なんでございます。
このデザインはそっくり、前々号↓のパロディだったのでございました。



ナイス遊び心でございます。


ポスターという広告媒体が広く普及し、そのインパクトと芸術性において
制作者たちがしのぎを削った世紀末。
都市ではポスターを扱う画廊が登場する一方、美術館や博物館でもポスターを蒐集し
高まるポスター熱の中、「ポスター愛好家協会」なるものまで発足いたします。
本展に展示されている「ポスター愛好家協会」の発行した雑誌「ダス・プラカーテ(=ザ・ポスター)」や
ポスタースタンプ(実際のポスターデザインをそのまま使った、切手状の印刷物)からは
多彩で上質なポスター文化の展開を見ることができます。

1914~1919年、第一次大戦下のポスターは、戦時公債や政治プロパガンダを扱ったものが多く
その後ドイツが辿った道-----敗戦、不況、ナチス台頭-----を思いおこさせ、胸が傷みます。

しかし20年代後半に至り、バウハウス的なデザインの登場を見ますというと
やっぱり何かこう、わくわくとしてまいります。
世紀末に登場したザッハプラカート(即物的ポスター)の、シンプルで力強いデザインの系譜を受け継ぎながらも
それまでとは全く違ったインパクトと美しさを備えたポスターの数々。
それは現代の優れた工業デザインにまで至る機能美への志向が
時代の荒波にもまれつつも、ドイツデザイン界に脈々と流れて来たことを物語っているようでございました。