読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『ミカドの肖像』

2008年12月27日 | 作家ア行
猪瀬直樹『ミカドの肖像』(小学館、1986年)

たとえば海老沢敏の『むすんでひらいて考』のように、日本固有の音楽とか言葉とか作品と思われているが、じつは外国から持ち込まれて日本に帰化したようなものがけっこうある。それがどのような経緯で持ち込まれ日本に根付いていったのかという研究は、たぶんけっこうあるだろうが、逆に日本固有のものが外国に持ち込まれて、どれほど大きな影響を与えたかのかという研究は、なくはないだろうが、それほど多くはないように思う。

猪瀬直樹のこの著作は、イギリスのサボイ・オペラで作られた『ミカド』というコミック・オペラがどういう経緯で作られ、どんな影響を与えていったとか、明治天皇の肖像画、つまりご真影と言われ、すべての学校に飾られていた肖像画がどのようにしてできたのか、プリンスホテルがどうやってプリンスホテルなる名称を使用できるようになったのかなどを調査することで、明治以降の天皇の姿や天皇にたいする大衆の見方を明らかにしようとする野心的なものである。

しかしあまりにも対象が拡散してしまって、最終的になにも映像を結ばないという結果になっているようにも思える。

とりとめのない感想をいくつか。歴史の教科書などで明治天皇の写真というのを見たことがある。ずいぶんと垢抜けたハンサムな人だなとずっと思っていた。ところがあれはイタリア人のキヨソーネという造幣局お抱えの絵師が描いたもの(銅版画)を写真に撮ったもので、実際の人物を撮った写真がこの本にも載っているが、たしかに昔の典型的な日本人の顔である。

1867年のパリ万博で床机に赤い毛氈をひいてそこで日本のお茶がふるまわれた。その給仕をしたのが日本から連れて行かれた浅草の芸子の三娘で、フランス人にずいぶんと人気だったらしい。それがその後にフランスで着物(とくに女性の着物)人気を起こしたにちがいない。モネだったかの絵にも着物を着流したフランス人女性が描かれているし、ずっと後のことになるが、プルーストの映画にもそうした服装をした女性が出てくる。ずいぶんとエロチックな印象を与えたのだろう。

日本のものと言われているものの多くが中国と日本がごちゃまぜになったような場合が多い。私たちがフランス固有のものとイギリス固有のものの区別がきちんとできないように、両者の違いがヨーロッパの人々に分らないのは当然だろう。たとえば現在のパリにも日本レストランというものがたくさんある。たとえば焼き鳥なんかも人気がある。でもその多くは日本人ではなく、東南アジアとか中国の人が経営しており、そういう店は私たちが入るとすぐに分るのだが、フランス人にはまったく違いが理解できないらしい。おもしろものだ。

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