読書な日々

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『パリの福澤諭吉』

2017年03月10日 | 人文科学系
山口昌子『パリの福澤諭吉』(中央公論新社、2016年)

福澤諭吉が文久遣欧使節団の一員としてフランスをはじめとしたヨーロッパを歴訪したのは、1863年4月と9月であった。

当時のフランスは、ナポレオン三世による第二帝政の時代で、産業革命を経たフランスは、鉄を中心にした都市開発が始まろうとする矢先で、まだエッフェル塔はないけれども、イギリスとならぶ二大強国となっていたから、パリの繁栄ぶりに諭吉も驚いたという。

一行は日本から船でマルセイユまで行き、そこから汽車でパリに到着した。パリでは数年前に結んだ条約関係の交渉のためにひと月くらい滞在しているから、諭吉たちは公的な訪問としてアンヴァリッドや病院などを訪問したのとは別に、個人的に知り合いとなったロニという、自然史博物館に出入りしていて、自分も肖像写真を撮って販売などしていた人物から多くの情報を得て、あちこちを訪問したようだ。

とくに諭吉が関心をもったのは、彼自身エンジニアでも自然科学の学者でもないので、最先端技術の紹介よりも、病院なら、それがどんなふうに維持経営されているのか、病人は支払いをどうやっているのか、どんなふうに看病されているのかをしつこく尋ねたりしたという。

また当時、イギリスやオランダなどの公的図書館の中で最大の蔵書数を誇っていたパリにある国立図書館を訪れて、自分たちが洋学のためにたいへんな苦労をした経験から、このような誰にでも開かれた図書館の存在意義に心を打たれた。

この本は、こうした1863年の文久遣欧使節団全体の行動と当時のヨーロッパと日本の政治状況の中に諭吉の活動を位置づけて、詳しく追跡した本であると同時に、当時の本にさえも載った諭吉の肖像写真の出所や現在の保存状況についての調査について書かれている。

30数人の使節団が4月にパリ滞在で使用したオテル・デュ・ルーヴルというホテルからの請求書が1億円くらいになるというから、こ出発から帰国までの一年間にどれだけのお金を使ったのだろうか。

毎日風呂に入る習慣もないし、せいぜシャワーを浴びる程度のフランス人にたいして、使節団の日本人が毎日風呂に入って、石鹸を大量に使用したのでフランス人がびっくりしたという記述もあって面白い。

そこまで詳細でなくてもいいのにと思う箇所が幾度となくあるが、福澤諭吉、パリ、文久遣欧使節などに興味があれば、面白い本だと思う。


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