読書な日々

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『たゆたえども沈まず』

2019年07月19日 | 作家ハ行
原田マハ『たゆたえども沈まず』(幻冬舎、2017年)

フィンセント・ファン・ゴッホと弟のテオ、そして彼の作品を評価していた浮世絵画商の林忠正と彼の助手を務める加納重吉、1880年代後半のパリを舞台とした話だ。

上記の四人のうち加納重吉だけは架空の人物らしい。

印象派がまだまだ画壇からは評価されなくても、多くの人が認め始めた時代、ジャポニズムがヨーロッパを席巻しはじめ浮世絵が飛ぶように売れた時代、そして浮世絵が印象派の画家たちに大きな影響を与えた時代を、いち早く日本からパリに渡って画商を始めた林忠正を中心として(ただし小説上は架空の人物である加納重吉の視点で書かれている)、新しい文化に熱狂するパリの様子を活写している。

印象派は、初めてヨーロッパ絵画においてキリスト教的バックグラウンドを排して、自然をそのものとして、観察者の中に映る世界として描いた流派である。キリスト教のバックグラウンドを持たない日本人が印象派を好む所以だ。

だが浮世絵は?富嶽三六景のように同一の対象を様々な姿で描く浮世絵が印象派の印象派たる特徴に合致していたのだ思う。それが印象派の画家たちに強烈なインパクトを与えたのではないだろうか。

ただこの小説は、思ったほどの面白さはなかった。加納重吉という視点を与えられた人物が今ひとつ魅力がない。もうひとりの主人公でもあるテオがあまりに不安定な精神状態で描かれているために、全体の印象が暗い。

原田マハにしては今ひとつの出来のように思う。

どっちみち架空の物語なのだから、高橋克彦『ゴッホ殺人事件』(講談社、2002年)のように、もっと大胆な設定にしたほうが面白かったのではないか。

高橋克彦『ゴッホ殺人事件』(講談社、2002年)についてのブログはこちら

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