読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

岡野憲一郎

2006年03月02日 | 自然科学系
岡野憲一郎『気弱な精神科医のアメリカ奮闘記』(紀伊国屋書店、2004年)

私とほぼ同世代の人だが、東京大学の医学部を卒業して数年後に渡米し、主にカンサス州立病院に勤務して、最近帰国した人らしい。「気弱な」というところと「アメリカ」というのがじつにミスマッチしている感じがして思わず読んでみようという気になりましたよ。だってそうでしょう。この著者もこの本の中で書いているように、アメリカ人といったら押しが強くて、自己主張がはっきりしていて、自分が悪くても絶対に謝らないとかっていうイメージでしょう。そういう人たちの国に「気弱な」人が医者をやるために渡って、長期に仕事をしていたというのだから、どんな面白い話が書いてあるのかなと思うでしょう。「アメリカ人だって対人恐怖になる」なんて面白そうなタイトルなんだけど、文字通りアメリカ人は普通は対人恐怖症になる人はすくないけれど、まぁそれでもいることはいるんだよ程度の話で特別面白いものではなかったね。

一番面白かったのは第二章の「思春期病棟という試練」かな。これはいわゆる研修期間を終えて一人前のドクターとして初めて勤務したカンサス州立病院の思春期病棟での話。「州立病院は保険診療をする私立の病院で扱いきれなくなった患者が送られてくる、いわば精神科治療の終着駅」と著者が説明しているから、およその見当はつくと思うけど、スタッフの配置やその施設などにしても、お金を出せばどんな最先端の治療でもしてくれる私立病院と違って、お粗末なものなのでしょう。こういうところで大変なのは、患者を相手にしなければならないだけでなく、スタッフ(それも看護士と看護スタッフのあいだにもまた身分的にも差がある)をも相手にしなければならないことだと書いている。そう、精神を病んだ人たちはたくみに医者と看護スタッフを分断し、自分に有利な状況を作り出すことに長けている、あるいはそうした分断や混乱を病棟内に作り出して喜んでいる、そういうことがあるらしい。

この本にもサリーという重篤な精神病患者の話がでてくるが、病棟でも「自傷行為を繰り返し、虚言癖があり、スタッフを煙に巻き混乱させることにかけては天才的」らしい。11歳から6年間を思春期病棟ですごしてきたと言うベテランである。ほぼ毎日のように自傷行為を繰り返し、この自傷行為をみたスタッフがあわてたり動転したりする様子をじっくり観察して喜んでいるらしいというような患者だと言う。私はこれを読みながら、なんというタイトルの映画だったか思い出せないが、アンジェリーナ・ジョリーが准主演をしていた、同じように精神科病棟の患者たちを描いた映画のことを思い出していた。主演の女性は対人恐怖症のような病気だったとおもうのだが、その子に対してアンジェリーナ・ジョリーが執拗に悪さをしかけ、その子が自分を見つめるために書いていた日記を奪い去り、その子の秘密を暴いてしまうという話だったと記憶している。このアンジェリーナが、じつに暴力的で、この精神科病棟を我が物顔で練り歩き、いろんな悪さをしてはスタッフに与える影響をじっくり観察して楽しんでいるというような患者を、じつに上手く演じていた。もともとナイスバディーだし、お色気もあるので、そうしたきわどさを見せながら、暴力的ですさんだ患者を演じさせたら、ぴか一だと思って見ていたが、やはり現実のアメリカ社会にもそういう人たちがいるのだということが、この本でよく分かりましたね。

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