小林善彦『「知」の革命家ヴォルテール』(つげ書房新社、2008年)
著者の小林善彦さんからいただいた本である。いただいた直後にも読んだはずなのだが、最近ふとしたことから読み出したら面白くて、再読した。
序文にも書いてあるが、名前が知られているわりには評伝のようなものがまったくない作家である。この啓蒙思想家というのは、ディドロでもダランベールでも、このヴォルテールでも、高校の倫社の時間とか世界史あたりで習ったので、名前を知っていることは多いが、たぶん本なんか読んだこともない場合がほとんどだろう。それにはやはり手ごろな評伝がないことからくると思う。
それに比べるとルソーのほうは掃いて捨てるほどある。インターネットでも「ルソー」を検索すると、なんでみんなこんなにルソーのこと知っているんだろうと首を傾げたくなるほどの数のサイトがヒットする。ルソーの書いた著作もそれほど読まれているとは思えないが、それでもルソー研究書的な本はけっこう出ているから、読む人もいるのだろう。
さてヴォルテールというのはいろんな人として知られていたし、現在も知られている。たとえばラシーヌやコルネイユという先達をもつフランスの古典主義演劇を継承するものとして、とくに18世紀には絶大な人気を誇ったらしい。またイギリスに渡って数年を過ごしたときに体験したシェークスピア劇に刺激を受けて、彼を紹介したり、自分の劇作品にもシェークスピア色を出してみたりしている。しかし現代では彼の演劇作品はほとんど上演されないらしい。
またこの本でも後半を使って紹介しているが、無知と偏見による宗教弾圧的な迫害にたいする批判精神でも有名である。カラス事件がそのいい例だろう。とくにこうした側面はヴォルテールがスイスの隠居してから50歳台になってからのことで、その精力やたいへんなものであっただろう。
最後に、意外と知られていないが、この著作では随所に強調されている側面、つまりブルジョワとしてのヴォルテールということである。彼の父親方が金貸しを生業として財を成した人で、親からはヴォルテールもその道を歩むことを期待されながら、それを拒否して文芸の世界に入ったが、やはり自律した文芸活動をするためには自らが資産家でなければならないことを自覚していたようで、詳しいことは分からないが、投機やら金貸しやらをやって莫大な財産を築いていた。
第一部第二章の青年時代には「蓄財の才を発揮」という節もある。彼は年金を手に入れるようにしたとして、オルレアン公から1200リーヴル、国王から2000リーヴルなどをもらったとあるが、私にはこの「年金」というのがどういうシステムのものなのかよく分からない。少なくとも、現在の年金制度のように自分の収入の一部を貯めておいて、ある程度の年齢になったら、一定金額がもらえるようになるというようなシステムではなかったことだけははっきりしているようだ。
たとえばルソーなんかだと、当時ベストセラーになった『新エロイーズ』の収入とか著作集を出版させて、出版社からもらったお金で年金を組んだなんてことが書いてあったりするのだが、ヴォルテールの場合はどうだったのだろうか?
さらに彼は投機をしたり、株式の売買をしたり、穀物市場にも手を出したり、絵画や版画の売買までやったと小林氏は書いている。110ページには1749年にヴォルテールが金を貸した相手とそれで得た利子収入が掲載されているが、合計して7万5000リーヴルくらいになる。そしてこの年の彼の収入は10万リーヴルになるという。
こういうブルジョワとしてのヴォルテールを研究してみるのも面白いのではないだろうか。
著者の小林善彦さんからいただいた本である。いただいた直後にも読んだはずなのだが、最近ふとしたことから読み出したら面白くて、再読した。
序文にも書いてあるが、名前が知られているわりには評伝のようなものがまったくない作家である。この啓蒙思想家というのは、ディドロでもダランベールでも、このヴォルテールでも、高校の倫社の時間とか世界史あたりで習ったので、名前を知っていることは多いが、たぶん本なんか読んだこともない場合がほとんどだろう。それにはやはり手ごろな評伝がないことからくると思う。
それに比べるとルソーのほうは掃いて捨てるほどある。インターネットでも「ルソー」を検索すると、なんでみんなこんなにルソーのこと知っているんだろうと首を傾げたくなるほどの数のサイトがヒットする。ルソーの書いた著作もそれほど読まれているとは思えないが、それでもルソー研究書的な本はけっこう出ているから、読む人もいるのだろう。
さてヴォルテールというのはいろんな人として知られていたし、現在も知られている。たとえばラシーヌやコルネイユという先達をもつフランスの古典主義演劇を継承するものとして、とくに18世紀には絶大な人気を誇ったらしい。またイギリスに渡って数年を過ごしたときに体験したシェークスピア劇に刺激を受けて、彼を紹介したり、自分の劇作品にもシェークスピア色を出してみたりしている。しかし現代では彼の演劇作品はほとんど上演されないらしい。
またこの本でも後半を使って紹介しているが、無知と偏見による宗教弾圧的な迫害にたいする批判精神でも有名である。カラス事件がそのいい例だろう。とくにこうした側面はヴォルテールがスイスの隠居してから50歳台になってからのことで、その精力やたいへんなものであっただろう。
最後に、意外と知られていないが、この著作では随所に強調されている側面、つまりブルジョワとしてのヴォルテールということである。彼の父親方が金貸しを生業として財を成した人で、親からはヴォルテールもその道を歩むことを期待されながら、それを拒否して文芸の世界に入ったが、やはり自律した文芸活動をするためには自らが資産家でなければならないことを自覚していたようで、詳しいことは分からないが、投機やら金貸しやらをやって莫大な財産を築いていた。
第一部第二章の青年時代には「蓄財の才を発揮」という節もある。彼は年金を手に入れるようにしたとして、オルレアン公から1200リーヴル、国王から2000リーヴルなどをもらったとあるが、私にはこの「年金」というのがどういうシステムのものなのかよく分からない。少なくとも、現在の年金制度のように自分の収入の一部を貯めておいて、ある程度の年齢になったら、一定金額がもらえるようになるというようなシステムではなかったことだけははっきりしているようだ。
たとえばルソーなんかだと、当時ベストセラーになった『新エロイーズ』の収入とか著作集を出版させて、出版社からもらったお金で年金を組んだなんてことが書いてあったりするのだが、ヴォルテールの場合はどうだったのだろうか?
さらに彼は投機をしたり、株式の売買をしたり、穀物市場にも手を出したり、絵画や版画の売買までやったと小林氏は書いている。110ページには1749年にヴォルテールが金を貸した相手とそれで得た利子収入が掲載されているが、合計して7万5000リーヴルくらいになる。そしてこの年の彼の収入は10万リーヴルになるという。
こういうブルジョワとしてのヴォルテールを研究してみるのも面白いのではないだろうか。