読書な日々

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『南仏プロヴァンスの12ヶ月』

2011年07月20日 | 作家マ行
ピーター・メイル『南仏プロヴァンスの12ヶ月』(河出文庫、1996年)

南仏プロヴァンスの12か月 (河出文庫)
ピーター メイル
河出書房新社
南仏プロヴァンスを日本でも有名にしたエッセーとして有名なので、これまで敬遠してきたのだが、最近、ピーターラビットで有名なイギリスの湖水地方とか、このプロヴァンスといった、自然が豊かに残され、かつ人間の嗜好にあった自然の姿をしていることで、興味が湧いてきたので、読んでみた。

フランス人が食べ物にこだわるというか、食べるために生きている民族だということを有名にしたのが、このエッセーなのかどうか知らないが、作者が食べることにはあまり興味もないしお金もかけないと言われるイギリス人であることから、当然のようにフランス人のこの面が強調されるのは仕方ないだろう。フランス人のなかでもとくに南仏のフランス人にこの傾向が強いのはやはりラテン系ということか?

フランス人のこの側面を強調して面白おかしく仕立て上げている映画もあるが、やはりこのエッセーの影響かもしれない。一つは『グリーンカード』(1990年)という映画。独身者は入居不可という庭園アパートメントを借りたいアメリカ人女性がアメリカの永住権を手にしたいと思っているドパルデュー演じるフランス人と偽装結婚をするという話だが、第一印象はまるで野蛮人みたいなこのフランス人が食べ物にうるさいし、美味しい食事のためなら自分で買出しにも行くし、自分で料理もするという人間として描かれ、それがセンスを重んじて、食べることなんかどうでもいいという洗練されたニューヨーカーである女主人公から軽蔑のまなざしで見られるというところから始まる。

二つ目はベッソンの『トランスポーター』(2002年、パート2は2005年)。運び屋のフランクが南仏に住んでいるというのがミソ。とうぜん彼に絡んでくる警部のタルコーニ警部は食べ物にうるさい。このパート2では、舞台はアメリカのマイアミになっているが、タルコーニ警部がまちがって警察にしょっぴかれ警部であることが分かるとサンドイッチとワインを出されるが、これが気に入らず、アメリカ人に料理の手ほどきをするという話になっている。これはフランス人監督のものだから、フランス人がフランス人をそうした国民として描くというのはどうかなと思うのだが、まぁベッソンは完全にハリウッド監督になっているから、そういう視点をいれるのにさほど引っ掛かりはないのだろう。

話をもどすと、1月から始まるこのエッセーの冒頭から、南仏に雪と読む方もビックリするようなエピソードから始まるが、以前ある小説でもアルルの付近に雪が降ったという設定で物語が始まったことを見ても、時折こういうことがあるようだ。

郷に入れば郷に従えということを実践した作者が、その郷とはまったく相容れないようなイギリスからやって来た人間だということが面白さを醸し出しているのだが、それにしても、プロヴァンス人の自分たちの生活スタイルにたいする自信こそ見習いたいものだ。鉛管工、ぶどう農家、学問とか学歴とかとまったく無関係の世界でも、だれもが一家言をもって自信に満ちた人生を送っている。日本人に欠けているのはそこではないだろうか?


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