読書な日々

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「ダーク」

2007年08月14日 | 作家カ行
桐野夏生『ダーク』(講談社、2002年)

前に読んだ村野ミロシリーズかなんかの一冊から受けるイメージがぜんぜん違うので、驚いている。人間が愛憎だけで生きているような、恐ろしい世界がここには描かれている。たしかに原題のようにダークな世界と言ってもいいのかもしれないが、ただそれだけではない、恐ろしい世界。「OUT」にはまだ女主人公の筋の入った信念のようなもの、価値観のようなものがあったので、女主人公に対するこちら側の共感のようなものもあったけれども、この作品の女主人公村野ミロにはそういうところはないぶん、読者にとっては恐怖しか感じられない。

後藤というヤクザとのあいだにできたミロの父親はすぐに死んだため、その後村野善三がミロと母親を引き取って世話した。善三が本当の父親でないことは母親が死んだときに、善三の兄弟分のような鄭から知らされたのだった。いまは善三はこの世界から足を洗ったようにして小樽に盲目の久恵と住んでいるが、心臓発作がおき、今度発作が起きたら命はもたない。ミロは愛していたはずの成瀬がミロに手紙を残して獄中で自殺をしたが、その手紙を善三がミロに見せなかったことでミロは激怒し、小樽まで出向いて、善三を発作で死なせてしまう。

そこから物語りは大きく動き出し、善三の女の久恵も激情をむき出しにしてミロを追い、鄭も善三に調査依頼していた自分の隠し子に関する報告書のことでミロを追い、逃げるために離れられなくなったジンホとともに、舞台は韓国へ。ジンホはミロを追ってきた久恵と友部に銃弾を浴びせられて下半身不随になり、車椅子での逃亡。鄭につながる山岸という男にはめられてレイプされたミロは山岸を殺して、さらに日本に逃げ、ついにはジンホが山岸兄の手下たちを殺してしまい、刑務所へ。そのあいだにミロは山岸の子どもを出産しハルオとなずける。鄭と取引によって、まとまったお金をもって沖縄に渡ったところで、小説は終わる。

桐野夏生って、ちょっと俗悪的になりすぎているんじゃないだろうか。久恵の変貌にもたまげたし、第一ミロがだいたいそんな行き着くとこまで行くような女には見えなかった。たしかに「OUT」の場合には行くところまでいったことで物語として成功しているが、この小説でも同じことをしても柳の木の下に二匹もどじょうはいないとかなんとかで、必ずしも成功するとは限らない。それに人間の本質って愛憎をさらけ出しさえすれば見えてくるってものでもないような気がするのだが、どんなものだろう。

光州事件のことが出てきたときには、これはなんかあるなとちょっとわくわくして期待したのだけど、たんなる回想に終わってしまって、残念だった。

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