読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『黒と茶の幻想』

2009年02月25日 | 作家ア行
恩田陸『黒と茶の幻想』(講談社、2001年)

利枝子、彰彦、蒔生、節子という大学時代の親友四人が潔の退職送別会の飲み会がきっかけとなって10月の連休を外れた4日をかけて屋久島旅行をすることになり、その旅の途中でそれぞれが過去に封印をしてしまっていた思い出したくもないような事実を再び意識にのぼらせることでその事実が持っていた新たな意味を見出していくというような小説である。数年前に本屋大賞をとり映画化もされた「夜のピクニック」の中年男女版といったところか。

利枝子と蒔生は学生時代に似たもの同士のカップルだったが、利枝子の友人となった憂理と蒔生の確執のために蒔生が利枝子に絶交を宣言したことで関係は切れていた。二人は互いに自分たちが、同じところに美や面白みを感じる似たもの同士だと自覚している。彰彦には自分が紹介した男友だちがみんな姉の紫織に奪われてしまうという経験をしており、大学時代に知り合った蒔生も同じように19歳から最近までそんな状態にあった。だが彰彦が大学教員の美人女性と結婚したことでその関係は終わる。節子と利枝子と蒔生は小学校時代からの幼馴染でもある。

まぁこのなかで一番危ういのは利枝子と蒔生であろう。利枝子は付き合っていた蒔生に突然の絶交を言い渡され、しかもそれが自分が紹介した女友達の憂理という女優志望の美人との恋愛問題らしいということから、また社内結婚していた女性と離婚するらしいということも聞かされていて、蒔生がよりを戻したがっているのではないかとかいったいなぜ突然に絶交を言い渡されなければならなかったのかを知りたいという気持ちもあり、今度の旅行の過程でそうした問題が明るみに出てしまうことを期待する気持ちもあれば、何も起きてほしくないという気持ちもあるからだ。それは怒りにかられた利枝子が蒔生に憂理の死の真相を教えるように迫り、蒔生が憂理に愛を強要した結果であったことを知って、利枝子が蒔生を平手打ちするというところでクライマックスを迎えることになる。

第一部利枝子、第二部彰彦、第三部蒔生、第四部節子という区割りになっており、それぞれのところでそれぞれが語り手になるので、彰彦や節子にもなにか得体の知れない過去の怨霊のようなものが浮き出てくるのかなと思っていたのだが、彰彦の場合は、上にも書いた姉の紫織と蒔生の関係ということがメインであったし、節子の場合は子どもの頃から夢の中に出てきた「割烹着のおばさん」というのが、じつは蒔生が親切を装いながら冷淡な人間であるということを知った幼稚園時代のエピソードにあるのではないかと回想するくらいのことで、そんな怖ろしいものではない。

そういう意味では600ページを越える大部の小説を読まされて「そんだけかよ」と少々がっかりくるような内容ではある。

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